第4話 南小島へ

三人で非常階段を駆け上がり、五菱重工本社ビルの屋上に出た。そこには複数のヘリポートが在り三機の航空機が駐機している。


その三機は


安曇重工の垂直離着(VTOL)戦闘機F53。

四井重工の小型ヘリコプターY22。

本多航空機のティルトローター輸送機T60だ。


僕はF53の横に立っていた真理からフライトスーツを受け取り、その場で着用した。


その間に小型ヘリコプターY22と輸送機T60はエンジンを始動しヘリポートを離陸していった。


フライトスーツを着用すると僕はF53のコックピットに駆け上がった。後席には既に真理が座っており、彼女は僕にHMDSと呼ばれるモニターを内蔵した特殊なヘルメットを手渡してくれた。

前席に座ってシートベルトとコネクターの接続をしていると真理がエンジンを始動してくれている。僕が操縦準備を完了した時にはF53のターボファンエンジンはアイドル出力に達していた。


このレースでは操縦を僕自身が行う必要があるが、それ以外のサポートは真理にも可能だ。


「拓也さん、離陸チェックリスト終了しています。無制限の飛行許可も既に取得済です」


僕は大きく頷き、F53のコックピット後ろのリフトファンを作動させ、後部排気ノズルを90度下向きに動かした。そして左手のスラストレバーを離陸推力テイクオフパワーまで前へスライドさせた。


コックピット後ろのエンジン音が急速に高まりF53が五菱重工本社ビルの屋上より垂直離陸した。


高度5千フィートで150ノットまで加速し、水平飛行モードに入れると、機首を180度に向け東京湾上空に出た。そのままアフターバーナー出力に入れて、ほぼ垂直に上昇をする。高度計の針が一気に高まり5万フィートで水平飛行に入った。僕は方位を239度に向け南小島への直線コースに載せる。

速度は一気に超音速を超え、マッハ1.2に達するとスラストレバーを少し引き巡航推力クルージングパワーに入れ、自動操縦をエンゲージした。


僕はこのF53の操縦訓練を既に二年前から受けており、操縦技能は最高レベルエクセレントの評価を受けていた。


「南小島まで1893キロ。着陸まで94分です」


「他の機体は? 和幸と一郎は?」


「本多一郎さんのT60は約80マイル前方を高度2万フィート、速度305ノットで飛行中です。四井和幸さんのヘリコプターは羽田空港に着陸しています。多分、四井重工の超音速輸送機C230に乗り換えて下地島へ、そして、そこで再びヘリコプターに乗り換えて南小島に向かうと思われます」


僕は頷いた。速度305ノット(565キロ)でしか飛行できない一郎の機体は南小島まで200分以上掛かる筈だ。超音速で飛ぶF53の敵じゃない。

問題は和幸のC230だ。あの最新の輸送機はマッハ2.2で飛行できる。このF53よりも遥かに早い速度だ。でも和幸のC230は南小島のヘリポートに着陸出来ないから下地島でヘリコプターに乗り換えて南小島に向かう必要がある。どっちが早いのか……?


「現状では、私達の南小島への往復時間は219分の見込みです。これは帰りの屋久島での給油も含みます。そして四井和幸さんは羽田と下地島での乗り換えを含むと234分の見込みとなります。速度は私達の方が遥かに遅いですがVTOL(垂直離着陸)機能で直接五菱重工の本社ビルと南小島のヘリポートに着陸出来るF53に大きなアドバンテージがあると言う事です」


僕は頷いていた。これでこのレースは安曇の勝ちだ。結果として茜を僕のモノに出来る。

僕は高校三年の彼女への告白のシーンを想い出していた。

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