第3話 レース スタートイベント

僕は帰国した翌日の朝、銀座に在る五菱重工の本社ビルを訪れた。最上階の展望レストランで、争奪レース取り合いのスタートイベントが行われることになっていた。


僕は参加者の中に懐かしい顔を見つけ、その美男子イケメンの前に歩み寄った。

「よぉ、和幸。元気か? お前、ケンブリッジを首席卒業したんだって?」


僕が右手を差し出すと四井和幸も笑顔で握手に応えてくれた。

「おお、拓也。お前もMIT首席だろう。今日は負けないからな」


僕は頷くと、もう一人の参加者を探した。そして彼、本多一郎を見つけ僕は手を振った。しかし彼は僕に気付いたが「フン」と視線を逸らした。


「奴の会社はジェット機が無いから、これは最初から負け戦なのさ……」

そう和幸が呟いた。


その時、展望レストランに集まった人々のザワメキが止まり、入口に全員の視線が集まった。世界中から集まったメディアのカメラも一斉に一方向に向かう。


そこには五菱重工のご令嬢、東大卒の才女、そして完璧な美少女、五菱あかねがブルーのカクテルドレスを着て立っていた。

彼女はその場に居る全員の視線が自分に注がれている事に驚いて左右を見渡していたが、「うん」と頷いて、頭を軽く下げると、足早に中央の簡易ステージに駆け上がった。


茜はマイクを持つともう一度大きく頭を下げた。

「皆さん、今日はこのレースイベントにお越し頂いてありがとうございます。本日出席できない父に代わり、私からご挨拶をさせて頂きます」


僕はステージ上で眩い照明に照らされて淡いブルーに輝いている彼女のドレスを見惚れてしまっていた。

そんな僕に気付いた茜が手を振ってくれる。僕は彼女へ手を振り返した。彼女と逢うのは本当に久しぶりだ。


「このイベントは在る意味、私のお婿さんを選ぶレースです。今日のレースに出る三人をご紹介します。安曇拓也さん、四井和幸さん、そして本多一郎さんです。美男子イケメンのお三方、ステージへ上がって下さい」


僕はその茜の声に、少し照れながらもステージに上がった。僕達がステージに上がると会場から溜息が聴こえる。


「そう、この三人は本当に美男子イケメンで大企業の御曹司、そして各国の一流大学を首席で卒業されています。お婿さん候補としては申し分ないと思っています」

そう茜に紹介されて僕は少しだけ胸を張った。


「さて、今日、私を『取り合う』レースのルールを説明しますね。五菱重工の別荘が沖縄県の南小島にあります。ここは少し他の島から離れていて、石垣島の北150キロの東シナ海に在ります。この別荘に、私の三つのアクセサリーが置かれています。そのアクセサリーの一つをここに一番早く持って帰って来た方が優勝です。ただし……」


茜は僕達三人を振り返って口角を上げた。

「移動に使える乗り物は、各社が製造・販売している商品に限ります。そして、アクセサリーを私以外は、拓也さん、和幸さん、一郎さんしか触ってはいけません。また乗り物は、彼等自身が操縦・運転する必要があります。それで一番に私の手に渡してくれた男性ひとが優勝です。各アクセサリーはイヤリングを拓也さんに、ネックレスを和幸さんに、そして指輪を一郎さんに運んで貰います」


僕達は大きく頷いた。既にそのルールの概要は全員が理解をしていた。ただし目的地はここで初めて説明を受けた事になる。


茜が左手を大きく上げた。

「それではレースを開始します。3、2、1、スタート!」


茜が大きく左手を振り降ろした。僕達はそれに合わせステージから飛び降り、部屋の外に駆け出した。

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