第2話 ご令嬢取り合いレースとは

 「父さん、お呼びですか?」


安曇重工の虎ノ門本社ビル。その社長室に真理と一緒に入ると、執務席の父が立ち上がって僕に笑顔を見せた。


「拓也、MITを首席で卒業したそうだな。流石、俺の息子だ。まあ、そこに座れ」


僕は父に指示され部屋に在るソファに腰を掛けた。父が僕の対面に満面の笑顔で腰を降ろす。真理は僕の後ろに立ったままだ。


「お前も承知しているだろう。明日の三社のレース。安曇重工がトップになる為の試金石だ」


父は若くして祖父から社長の要職を引き継ぎ、今では安曇重工を日本トップ3のモノ造り企業に成長させた。残念ながらトップ1には未だ届いていない。

現在、日本一の総合モノ造り企業は五菱重工で、未だ安曇重工の二倍の規模を誇っていた。また安曇重工とトップ2を争っているのが、四井重工で、ここの御曹司、四井和幸は僕の高校の同窓で、今年ケンブリッジ大学を卒業し帰国している。

そしてもう一つ、少し格は落ちるが本多重工がそれに続いており、ここの御曹司、本多一郎も僕と和幸と同じ高校で東京大学を卒業している。


この安曇、四井、本多の三つの会社が明日『あるレース』に参加することになっている。それは正に各社の将来を掛けて、ある『もの』を『取り合う』レースだ。


「お前達の三人の学力、身体能力は甲乙つけ難いと五菱忠明社長も考えている様だ。そしてお前達全員が、五菱のご令嬢、あかねさんに熱を上げているのもご存じだ。このレースで勝った者が彼女と結婚して五菱の養子に入れる。それは安曇重工の政略的にも非常に重要だ。お前達の結婚により日本一のモノ造り企業が実現する。正にモノ造り企業の覇権を争うトップを取り合う戦いだ」


僕は大きく頷いていた。高校時代、僕は、茜に何度も交際を求めていた。彼女は頭脳明晰、スポーツ万能の美少女で、それも日本一の企業の一人娘でもあり、僕の本能が彼女を獲得する事が自分の将来に大きな糧になると考えていたからだった。それは他の二人(和幸、一郎)も同じだった。


そして僕達の大学卒業を待って、このレースが開催される事になった。それは五菱社長の遊び心に因るものだったし、最初この話を聞いた父達は余りに常軌を逸したご令嬢争奪レース取り合いに否定的だったが、その内容が各社の御曹司の能力だけでなく、各社の商品の性能を競い合う戦いだと知って、この突拍子もないご令嬢争奪レース取り合いが現実のものとなった。


「お前は安曇重工の為にも絶対に勝たなければならない。会社としても最大のサポートをする。早速、本日付で真理を私の秘書からお前の秘書に異動させた。詳細の作戦は彼女と立案する様に。頑張れ!」


僕は真理と一緒に社長室を辞した。そして役員フロアに新たに造られた僕の部屋に二人で入った。そこは100型の液晶モニターが八面並び、複数の制御卓が並んだ部屋だった。


「それでは、拓也さん。想定される目的地、そして他社の使って来るオプションについて今から説明します」

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