眠れない夜に読む物語

レンga

第1話 Catch The Moon

 部屋で1人、プラネタリウムを作っていた。

 箱に穴を開けて、下から明かりを照らすだけ。すると、真っ暗な部屋に光が差して、天井に星空が広がった。

 ぼんやりとその星空を眺めて、いつかのことを思い出す。まだ君が生きていて、なんとなく過ぎていた時間。日常の、ほんの少しの特別な瞬間。


「わ、みて!今日、星が綺麗だよ!」

 つないでいた手をほどいて、君が急に指さした先には、空に穴が空いたみたいな満月と、その周りに瞬く星が、ちらほらと見て取れた。

「星って言うか、月が綺麗だね」

 僕はそう言って、手をつなぎなおす。

「えー!星も綺麗じゃん!月はなんか、目立ちすぎ!」

 君はそんなことを言いながら、僕に笑いかけてくる。

「満月だから、目立ってて良いんだよ。月が一番輝く瞬間なんだから」

「そうかな?私は欠けた月も素敵だと思うけど!」

 二人して、星空を眺める。永遠にこの瞬間が続けば良いと、心からそう思う。

 ただ、夜空を見上げただけなのに、どうしてこんなに嬉しい気持ちになるのだろう。君といるだけで、時間の流れ方が、風景の見え方が違ってしまうような、そんな気がした。

「こんなに近くにあるように思えるのに、何でこんなに、遠く感じるんだろうね」

 僕がそんなことを口走ると、君はニコッと笑って、月に向かって腕を伸ばした。

「でもこれだけ大きい月だと、なんか頑張れば触れそうな気がする……!」

 背伸びをして、ぐっと、空に手を近づける。


 ――月に触れた。

 ちょっと手を伸ばしたら、天井の星空、ひときわ大きな円に手が触れた。

 あんなに遠く思えていたのに、あっさりと、月が僕の手の中にあった。

「例えば、これは例えばの話として」

 僕は誰が聞いているわけでも無い中で、1人話し始める。

「もしも、まだ君が生きていたとして、今も隣で、月に触れた僕を見ていたとしたら、笑ってくれたのだろうか」

 君はきっと笑いながら「それなら私も」と手を伸ばしただろう。

「あのときは触れなかったもんね」なんて言いながら、僕と一緒に月に触れたに違いなかった。


 ひとしきり物思いにふけって、カーテンを開け、電気をつけた。

 ベッドに横たわる君の、ひんやりとした頬を指でなぞり、穴を開けた箱を捨てる。


「でも、もう良いんだ。僕は、永遠の満月を、手に入れたんだから」

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