迷い
「俺は何をしていたんだろな」
「いや最悪すぎるでしょ、流石に」
斬の声が聞こえたが、何が起こったのか分からず、その音が聞こえてきた方を向くと、斬がその銃道を逸らしていた。
どうやら咄嗟に銃を蒼が持っていた棒で思い切り殴りつけたらしい。
蒼が胸元を漁ってもその棒は出てこなかった。
「いつの間に奪いやがった」
「俺は手癖が悪りぃんだ」
悪びれない歪んだ笑顔で斬が答えると、蒼は呆れた様な顔で肩を竦めた。
「ここで父親を殺す、なんてそんなバットエンドは流石にごめんだ、神宮」
神宮は銃を殴られた拍子に手首を痛めたのだろう、右手を左手で握りしめて痛みを堪えつつ、斬へと向き直る。
「なんでわかった」
今にも噛みつきそうな目で威嚇する神宮に、斬はあくまでも平静だった。
「嘘はあんたの十八番だろ。あんたの言葉は、信じない様に、とあんたに教わった」
ぽかんとした顔の後に、神宮は自虐的に笑い出した。
「てめぇでてめぇの首を絞めてたってわけか!」
「いや、」
斬が口を挟む。
「俺はお前がお前自身の首を絞めるのを止めただけだよ」
放心した様に空を見つめる神宮は、もう流れから外れる事はしなかった。
「なんでそんな事をしたんだ?」
私が神宮に問うと、彼はのんびりと笑った。
「俺はとにかく1番になりてぇんだ。暴力で、1番になって、部下どもが信じた、ヤクザものとしての自分を守りたい」
そんな事をしなくても大丈夫だろ、と斬がのんびり応じると、心底おかしそうに、神宮は笑って、優しく笑みを浮かべてみせた。
「その通りなのかもな。でも、俺はそれ以外の働き方なんて知らねぇ。お前らに雇われたからといって、足手まといになるのは死んでもごめんだ」
はーー、と深い深い溜息を漏らしてやると、神宮は私に視線を向けた。
「私が見定めたやつで使えなかったやつなんていないぞ。お前は才がある」
私を信じろ、と手を差し出す。
今度こそしっかりと手を掴まれ、私は少し笑った。
「とことん不器用なやつだなぁ」
「ちっ俺もやってやろうとしてたこと、お前なんぞに先越されるとは思わなかったぞ」
話が纏まりそうな時に、帝が茶々を入れる。
嘘かまことか分からないギリギリの線を突き進む帝に、みんな笑顔を見せる。
「お前は無理だろ、銃を持つことすら出来ない優しい奴め」
そう言ってやると、満足したような顔で視線を逸らす。
楽しいなぁ、という顔をするみんなの中心にいるのは私だ。
「じゃあ、ここがスタートラインだな」
みんなガラの悪い顔を浮かべる。
「ここから、裏切りは許さん。私の会社で行われることは全て、貧富の差を無くそう、とするものであって然るべきだ。これに、反対する奴は、理由もつけて、述べよ。意見交換の場を設けよう」
見回すと、一人一人、肝が据わった顔で頷いた。
「それじゃ、一件落着だな!」
そう宣言して、私たちは会社の一員になった。
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