対話
政府の連中の慌て具合といったらなかった。
武装した兵士で辺りを囲っているのだから堂々とすべき所を、弱腰の屁っ放り腰で兵士の品格を台無しにしていた。
「ななな何故ここに来れるんだ! お前らは何なんだ! やっとわしらの時代が来ると聞いていたのにそれを邪魔するとは!」
一同の長でありそうな老人が声を張り上げるが、逆に老人の健康を心配してしまうほど、
それに、わしらの時代が来ると聞いていた、とは何だ?
聞き間違えで無ければ、あの長はただの他人のよくも知らない
私が苛々していると、後ろから明らかに、下手したら神宮よりも食えない奴が音も立てずに出てきた。
彼は長に小声で話しかける。すると、冷や汗をかきながら、長はなんとか言葉を紡ぐ。
「お主ら、ここへ何の用があってきたのだ?」
入れ知恵は最高のカードだった。
「ここにあるのは、新田一郎の作ったもの。彼は政府に従事していた男だ。その品を新田に隠せと命じたのは私たち。つまり、これは元々政府が新田に預けてたものだ。それを返してもらうのに、何も弊害はないだろう?」
のうのうと言ってのける贅肉ののりまくった身体に、私は今まで蓄えてきた力をぶつける。
「これは封印すべし、として政府が新田に預けたものでしょう。封印すべきではない、と判断されたのでしょうか? それとも、封印を政府で行う、ということでしょうか?」
「ただの社長のくせして、ごちゃごちゃうるさいぞ。女」
ああ、そうか、と私は納得してしまう。
彼らは、古き良き時代に取り残された、過去の物を引きずる者達なのか。自分が英雄のように崇められていた時代を思い出したいのだ。
「私からそれを奪い、何をする気だったのです? それさえ聞いて私が納得すれば、私も駄々は捏ねなかったのですが。何故、こんな強行策に出たのですか?」
黙ってしまう長に、また入れ知恵をする。
あいつは曲者だな、厄介だ。
私は一層気を引き締める。
ようやく長が反論の文言を覚えて、議論がまた始まった。
「今の不平等性を無くすためだ。
ブラックホール外では人が簡単に死んでいく。食糧などは外で育たずに、中からの施しを受けて、毎日、死ぬ気で生きる術を探す。
そんな暮らしをさせたくないのだよ」
「では何をどうすることでその人達を救おうというんだ?」
「それは勿論、外の人たちにこの磁石を配るのさ! そうすれば、こんな明確な分かれ方などしないだろう!」
「甘っちょろい考え方ですね」
我慢ができない、とばかりに神宮が発言するために前に出る。
「外の人間をスカウトしていた私には発言権があると思うので言わせていただきます。
外の彼らに無差別に磁石を渡すと、どんな事が起こると思いますか?
中の人への恨みは溜まり溜まっている。仲間割れは日常茶飯事です。なので私や仲間が仲裁します。
その仲裁、中々手間がかかる上に、かなり卓練した伝え方をしないと、溝は深まるばかりです。
それを、あなた方は
「そんなのはその都度みんなに協力してもらってだな……」
その男は、ニヤリととんでもない憎悪を込めて、私達と、その長を見ていた。
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