突撃の合図
「さて、とりあえず着きましたが、どうなさいますか?」
その質問に答える事もままならないほど私たちは息をあげていた。
「なんとまあ、口だけですね」
「は? なめんじゃねぇ。みんながみんなお前のように馬鹿力だと思うなよ」
唯一口のきける斬が挑発にのる。
いや、挑発というか、ただのじゃれあいだな、あれは。
そう思って少し和むが、私の体は動けない。
「思ったより遠かったですか?」
銀色を靡かせて、宮園が私の顔を覗き込む。
私は苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「そうだな、もう少しばかりで辿り着く、という神宮の言葉を信じた自分が嫌になるくらいは、遠かったな」
にゃはは、と宮園が笑うと、
「あまり近付かないでください」
刃を引き抜いて中に入ってきた実に、私は内心動揺した。
お前は、こんな世界で生きながら、何も言わずに私の側に居てくれたんだな。
そう考えると、今までの自分の行動が思い起こされ、顔が赤白くなった。
「ありゃまお前男前だな! 面白え! 名前なんてんだ?」
「実だが」
そっか実かぁ、と呟く宮園の目は獲物を狩るときのそれだった。
「おい、宮園。実が嫌がる事をしたら俺がお前をぶっ飛ばしにいくからな」
斬が殺気を放って輪を崩す。
「過保護すぎっすよ斬先輩」
わざとネチネチと言葉を発する彼と、斬の間に火花が散る。
「おい。やめろって言っただろうが。耳聞こえてねえのか?」
高見がその輪に入ると、途端に宮園が席を譲る。
「耳聞こえてる! 聞こえるってば離せよ〜」
のんびりと抵抗も無しに耳を引っ張られる宮園と高見のペアは、この場に1番必要な人選だった。そう私は確信させられ、神宮のリーダーとしての素質が桁違いに高く感じる自分に腹が立ち、唇を噛んだ。
だが、ここで逃げ出すわけにはいかない。
今日は私がリーダーなのだから。
「それじゃあ、お遊びはその辺にして、耳を塞いでいろ」
そう仲間に伝えると、斬と神宮がいち早く応じて耳を塞ぐ。
「政治家諸君! 私は石井有里! 祖父の形見をお前ら政治家達に奪われた女だ! 今のうちに投降しろ! お前らが差し向けた兵士など目ではない! 聞こえているなら即刻返事をするように!」
「お前何やって……!」
斬が思わず叫ぶと、杏子が噛みつく。
「うるっさぁぁい! もう! どっちもうるさいわよ! 耳が聞こえにくいじゃない!」
その様子に少し脱力気味に笑いながら、斬と私が謝罪すると、彼女はよし、とばかりに首を縦に振った。
「さすが素晴らしい」
嫌味か本音が分からないような口調で、神宮が私にじゃれつく。
褒めてるのか?それとも貶しているのか?と聞くと、どちらでしょうね、と、自分にもわからない、という態度を示した。
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