闇の中

「では、参りましょうか」


 ふわりふわりと闇の中へ進む神宮に、私は慌てて明かりを当てる。


「ちょっと待て! 今の雨で紐が何処かへ行ってしまったんだぞ! どうやって見つけ出すっていうんだ」


 神宮は、露骨に私達に向かってため息をつく。やれやれ、といった動作で、静かに話し出す。


「宮園、高見。説明してやれ。さすがに面倒だ」


 はいっ!と大声で応じて、2人は代わる代わる組織の一員、といった口調で話を紡いだ。


「私たちは念のため、どこで雨が起こるのか、どの紐を通れば目的地に近づけるのか、などの情報が入ってくる『アップグレイド』を持って来ているのです」


「最も今は、こっそり神宮さんに渡してあるので、手元にはありませんが」


 涼しい顔をしたまま言い切る2人に、私は我慢が効かなくなってきた。


「なら初めから使えばいいだろうが」


 低い声で問いただすが、神宮の微妙な雰囲気の差を目の当たりにする、その前に、斬が私の前へ移動した。


 ビリビリと空間が歪むような殺気を飛ばしながら、神宮は言った。


「俺ははなからお前らと仲良しこよしをやるつもりはねぇんだよ」


 当たり前じゃねぇか、と見本のように、人を目で射殺せるような目つきで私たちを見る。

 だが、その目には軽蔑など、仲間としてやっていけない色は無かった。


「じゃあどうして今までその機械を使わなかったんだ?」


 斬が冷静に問いただすと、神宮は、お前を抜けさせちまったのは俺の大失敗だな、と言って、斬の心を乱そうとした。

 だが、斬は真っ直ぐ私たちの心に目を向けていたため、微塵も迷いを見せなかった。

 それは、私にとって救いだった。


「だからさっき言っただろ。お前らだけでどれくらいやれるのか、テストしたんだ」


「僕たちがそれに見合わないと思ったらどうするつもりだったんだ?」

 蒼が少しウキウキと尋ねる。


「もちろん見捨てるつもりだったな」


 そうか! とむしろ嬉しそうに言う蒼に、みんなは、神宮も含めて唖然とする。


「何故そんなに喜ぶ?」


「大人になると、価値を認められるなんてそうそうないんだよ。だから、その言葉がヤクザの言葉でも、嬉しいもんだな、と思ってさ」


 ヤクザ一同は、蒼を眺めて、蒼の目を、変わっている彼の目を見つめる。


「綺麗だな」

 高見が言うと、皆首を縦に振って同意する。


 神宮がふっと力を込めて、私に向き直る。その瞳は、焦りが見えた。


「なら善は急げだな」


 私はその視線に助けられ、リーダーとしての役割を果たすべく、堂々と胸を張って指示を出す。


「いくぞ、敵の本陣へ。私たちの事を、認めさせてやろうじゃないか」


 

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