弟分

 なるほど神宮の弟分とだけあって、長身の彼らはかなりの威圧感を覗かせている。


 宮園樹はスマートにスーツを着ているのに、どことなくヤクザの匂いが感じられた。厳ついアイテムを首元、腕、指に着けてあるからだろうか。銀色の髪は少し根元が黒く、細目の彼は油断ならない色を放っている。


「お嬢さん、別にそんなに見つめなくても俺は居なくならないっすよ?」

 

「なっ……!?」

 予想外すぎる言葉に、また頭がフリーズしてしまう。


 宮園は愛嬌のあるポーズで首を傾げる。


 わざとやっている、と私は確信して、気持ちが自然に冷静を取り戻した。


「お前がいつ尻尾を巻いて去っていくのか、見定めていただけだ」


「僕に尻尾はありませんよ?」


 口を愛らしくふにゃりと歪めて、何も分からない少年のように振る舞う。それを嫌がられる心配もなさそうな、嫌味でない計算の仕方に、私達は少し気持ちを緩める。


 ゴンっという音が響き、さすがに大きすぎる音に、叩いた本人以外が慌ててしまう。


「気持ち悪りいっていつも言ってるよなぁ?それすんなって言ってんのに何でてめぇは守れねぇんだこら」


 高見出久という青年が縦にも横にも大きい体で威圧する。


「だっていずくん、この人たち怯えさせたくないじゃないかぁ」


「だから怯えさせるさせないじゃねえよ。お前は自分の本心を隠しすぎる。それをやめろといっているんだ。馬鹿を見る羽目になるのはてめぇだぞ」


 いずくん!そんなに僕のことを考えてくれてるんだね!と叫んで宮園が高見に飛びつくが、フワリとかわされてしまう。巨大な体はフワフワ漂う上では支障がない。避けたついでとばかりに、宮園の襟を引っ掴んで、思い切り放り投げた。


「わーーー」

と声を遠ざけながら吹っ飛んでいく様子に、私たちは呆然とする。


 殴りつけたときにも思ったが、こいつ何て剛腕なんだ!


 よく観察すると、龍の刺青を入れた腕には筋肉がゴツゴツと目立ち、お腹も膨らんではいるものの、かなり硬そうな印象をうけた。


 第一印象とこれまで違う人達に会うのは久しぶりだな。


 高見のピアスが靡く。それには平和のシンボルである鳩のデフォルメが揺らいでいた。私が見つめていると、流石に気付いた高見が気まずそうに視線を明後日の方向に動かした。気にせず見ていると、さすがに黒い目がこちらを見た。


「僕の体に何か?」

「いや、不思議だなと思って。何でアクセサリー類に必ず平和のシンボルが入っているんだ?」


 そう聞くと、高見は少し自嘲気味に笑った。


「俺は平和が好きなんですよ」

 いつの間にやらこんな風になっちまいましたけど、と言っておどけた調子で黒髪をいじる。


「今からでも遅くないですよ」

 にこやかに胡散臭く微笑みながら、神宮が残酷なパスを出す。


「いえ! あなたについていく、と決心したのは俺自身です! 最後までお供させていただきます!」

 一切の迷いなく言うその顔に、悲しみはうかんでいなかった。


 後悔を見せる余地もない信頼しきった顔に、私はなぜか羨ましさを感じてしまう。


 その心を見透かしたように、神宮は私に視線を移して、獲物を見つけた、とでも言うように笑顔を作って貼り付けた。


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