裏切り

 とりあえず、道順もわからなかったから、その星に近づく。よく見ると、向こう側が透けるようになっていた。その中に、私の星と同じくらいの大きさの星があった。


「なんだ、ハリボテじゃないか」

「その通りだね、有里」


 後ろ!?

 私は素早く後ろを向くと、背後にいる帝にが目の前に見えて、驚いて飛び退く。

「この星に住んでるのなんて、僕を囲っているヤクザ連中か、僕くらいのものだからね。寂しいもんだよ」

 やれやれ、と首を振って見せる帝。

 なんでこんなに落ち着き払っているんだ?

 動揺を隠せない私に、帝は続ける。

「なんでこんなに落ち着き払っているんだ?かな?」

 一言一句違わずにそらんじて見せる。


「なんでかというとね、そりゃヤクザ連中が後ろに控えているのもあるが」

 私が不快に思うほど近くに寄って、内緒話より少し大きめの声で、言う。

「お人好しな有里が私を殺すことは無理だと、そう判断したからだよ」


「何か勘違いしていないか?」

 私はいい加減にイラついて、帝と対峙する。

「私は、ヤクザ連中を殺したんだぞ?」


 あっなんだ、気付いてたのか。そうつまらなそうに呟く帝はその言葉に反して、ニヤニヤと不気味に、夜を切り裂くように、笑っていた。

「まあ、僕を殺しても何にもならないんだけどね!どうせ次がまた補充されて終わりだ」

 ミャハハハ!と笑って、顔を歪める。

「いつになったら解放されるんだろね」

 帝の本音を聞いた気がして、私は思わず近寄る。

「有里! 気を付けろ!」

 斬の叫び声が聞こえて、私は敏捷びんしょうに飛び退く。

 サラリと刃を一閃させ、とんでもない速さでそれを収めた帝は、まだ面白そうな表情を浮かべていなかった。

「んーやっぱ慣れてるね、彼も有里も」

 面倒だなぁ、と全く面倒そうではない微笑で流す。

「誰に命じられたんだ?」

 長年追ってきた事実が本当はすぐそばに落ちていた、とでもいうようなしかめ面で、帝はボソボソと話す。

 それによると、磁石をオークションに出さないで、それを政府へ横流ししろとの要請があったようだ。


「彼ら政治家は、まだ自分たちに威厳があると思っているんだね」

 呆れた様子で言う帝に、私たちも同意せざるを得なかった。

 あまりにもおざなりすぎる作戦に、私ですらため息をつきたくなる。


「まあモーションだけしたから、もういいだろ。僕も君たちに手を貸すよ」

 面白そうだ、とまるで尻尾を振るように態度を逆転させる。


 いやなんという切り替えだ。


 私はなんとか冷静になり、口を開く。

「磁石の権利を主張する文書、あるか?」

 もちろん、と言って、帝は奥に消えていく。マイペースな彼女はみんなの緊張を解いた。


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