皆の力
「こんのクソガキ、舐め腐った事ばっかり言ってるんじゃない」
蒼の身から放たれる、どす黒い怒りの感情が、皆を包み込む。
「すみませんでした……」
素直に実が謝罪したことで、杏子が意外そうな顔をする。
「へー。誰かに謝るってこと教えてもらったのね。前は何に対して怒られてるとも知らずにすぐごめんごめん言ってたのに」
「保護者づらするなよ……」
しょぼくれている実をわしゃわしゃと犬のようにかき乱した。実は、茶髪をふんわりとかき分け、斬を掌で指して言った。
「斬が教えてくれたんだ」
杏子は戸惑う斬のところまでひとっ飛びでかけていき、力一杯抱きしめる。
「ありがとね」
少しは暴れるだろうと思ったが、案外大人しくしている斬を見て、私は違和感を覚えた。その原因に気がつき、大声を暗い宇宙に響かせる。
「斬は怪我がまだ治っていないんです! しかもそんな重装備で激突されたら普通に痛いでしょ! 手加減してください杏子さん!」
彼女はあわあわと斬から飛び退いて、謝罪をする。斬はやはり限界だったようで、青い顔のまま、杏子さんの言葉に、いいんだ、と身振りで応じていた。
なんかこう見てると、斬と杏子ってお似合いだよな……
甘い考えが脳を満たそうとするが、それは最後まで取っておこうと、私は本題に戻る。
「帝を止めなきゃ」
「止めるには、君が私の仲間にならないとね」
一瞥をくれて、私は騒がしい帝を無視する。
「これで帝との連絡手段が絶たれた。異論のあるやついるか? 」
あくまでも確認のために、柔らかく言葉を発して意見を聞く体勢を作る。
皆それぞれ顔を見合わせていたが、誰一人として手や口をあげる者はいなかった。
「よし」
私は勢いづけて、これからの確認をする。
「オークションだが、どうしたら止められる?」
真っ先に斬が発言する。
「止めようがないな。それに、無理やり割り込むのも無理だ。山ほど俺のような奴らが湧いてくる仕組みになってる」
「じゃあこっそり侵入するところはないか?」
今度は実。
「ないですね。僕は子供の頃、色々なところをくまなく冒険していたのですが、どこにもそういう侵入口は会場にだけは通じていませんでした」
「それなら盗むという手段は無理だな。他の案はあるか?」
杏子が口を開く。
蒼が口を出す。
そして、しばらく問答して、話はついた。
二人、こんな素晴らしい才能を持っているのか。私は感心してばかりだった。
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