道化師
「何故そんなものに賛同している。実」
少し気まずそうに彼は照れ笑いを浮かべながら、呟く。
「父さんには逆らえない」
なんで…!?と訊いても、答えは帰ってこない。
それに、デモのことも気になる。やっているのはたった数人だと聞いていたのに、何故そこまでこの石に頼るのか……
ああ、報道されるその数ですら、政府の連中に抱え込まれているのか。
どんどん私の中の力が抜いていかれるような心地で、私は今までのことを考える。
「おい、お前本当にそう思っているのか?その行動が、父親を救うと、本当に思っているのか?」
実は下の方に視線を向ける。
「正直思いません」
はっ……??私は面食らって彼の次の言葉を探す。
「彼は暴走しているのです。山ほどの貧しい方達に下克上をされると、さすがに自分の地位ですら怪しい。全人類を平等に、ということはそういうことなんですよ、有里」
それでも私は、そのような世界を見てみたいのだ。外に出ると必ず聞こえてくる悲鳴や怒号。それらは私の心を打った。
どうしても、どうしても彼らのために、動くことはやめられない。そう自覚したときに、隣に人が並んだ。
「有里の好きにしろ」
斬がいるとやはり落ち着くな、お思っていると、また1人、今度は逆側に立つ人がいた。
「そこのアホと同意見だ」
私のすべきことは何なのか、ようやくそこで分かった。
「実!杏子!絶対なんとかしてやる。だから、こっちへこい」
毅然として言うと、2人とも薄く笑っていた。
「むりよ」
「むりですね」
2人同時に断言する。
「何故だ」
私が厳しい口調で問い詰めると、渋々話しだす。
「僕(私)の手は、もう汚されているから」
そう言って、2人は手を差し出す。真っ赤な血が、2人の手を濡らす様子が見えた気がした。
「それでもいいじゃないか!」
ヤクザ組を抜けるのは大変だと、有里でも知っているだろうに、という呆れた視線をいなして、私は言い切る。
「私はこれから裏の世界に入るんだ。お前らがいたくらいで自分の命すら守れないほどの女に成り下がる気はさらさらない!」
戦闘の際に全く役に立たない自分を奮い起こして、言ってのける。
怖いけど、今回も失うなんて、そんなの絶対に嫌だ。
「こっちへ来い2人とも。私が、地獄の中でも咲く花があること、証明してみせよう」
舞台じみた部屋に漂う空気を壊さぬように、喜劇のような台詞を吐き出す。2人はお気に召したのか、クスクスと笑っていた。
「それじゃあ、お供いたします」
「とかいって、戦闘中お前が全力で襲いかかったわけじゃないことくらい、この僕にはお見通しなんだよ」
少し驚いた顔をして実と杏子は蒼を見る。
「全力だったなら、残念だが、僕くらい数秒で叩きのめせるだろ。舐めすぎだ」
「へぇ……蒼はそこまで身体に戦いが居座っているんですね。意外でした」
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