悪魔の使い道

「おい、その辺にしておけ」


 低く、でもとても柔らかい声が、闇の中に響く。私は、パニック寸前の自分を閉じ込め、その声のする方へ勢いよく向かう。


「斬!!」

 とても嬉しそうにぶつかっていくと、ふわりと彼は受け止めてくれた。その後の斬の言葉に、胸が締め付けられる。


「なあ有里。俺は、ここのヤクザ連中の内の1人だったんだ」

 そんな事知ってる! と声を出そうとしても、なぜか喉から出てこない。

 どうしてっ……! どうして少し疑うような気持ちが出てくるんだっ……!私は、社員全員と家族を疑わないと、そう決めたんじゃないか!

 ……?えっ?私はなんでそんな誓いを立てたんだっけ。


 子供が遊びまわる声がする。私は、総理大臣の孫だという田口と一緒に遊んでいた。


 はっ?なんで田口が……? それに、実と杏子はどこだ?分からない。何も分からない。怖い!!


 斬が、私にギュッと一瞬ハグをした。俺は味方だ、とでもいうようなハグに、頭がすっきりと澄み渡っていった。


 今度はゆっくりと、記憶をさかのぼる。



 私と一緒にかくれんぼをしていたのは、総理大臣の孫、そして実。

 大臣の子供が、つまり田口の父がやってくる。彼は小さい子供たちのほとばしるエネルギーに圧倒されながら、大きな口を開けて笑う。

 そして、実を、抱き上げた。


 えっ……なんでだ?


 何度確認しても、実は彼に抱っこされて、そちらの家に帰って行った。


「僕は」


 いきなり実の声が響く。


「僕は、大臣の家系です。大臣に命じられ、あなたの秘書として働くことになりました。あなたは恐らく、お母様お父様が殺されるところを間近で見て、挙句、命を引き換えに助けられて、ショックのあまり、思い出せなくなったのでしょうね」


 ああそうか、私たちの家系はみんな私みたいな性格をしていたんだな。

 そう面白く思いつつ、私は話を進める。


「なあ、その石の本当の力の使い方ってなんだ?」

 聞いてみても、返しはしないだろう、という予想は外れ、実は話始める。


「これは、この宇宙において、大事なものなのです」


 一息つく。実は自分のしていることが理解できない、と言わんばかりの目をして、私に話しかける。


「これによって、人々は、宇宙で動けるようになっているのです。

 それは、重力を司る石。小さな穴が見えるでしょう。ここに鍵を入れれば、間近なところから重力が戻り、人々は死んでしまう。本来は少しの重力ということで作ろうとしていたが、なんの手違いか、強すぎる重力を吐き出せるようになっていたのです」


 分かりにくいにも程があるが、恐ろしい話には違いないな。要するに、大きな爆弾のようなものなのだろう。真空を緩和するだけではなく、重力のせいで忙しなく周りにある星へと引き摺り回されていては何もできないからな。


「それを、どうするつもりなんだ?」

 実は、寂しそうに微笑んだ。


「ブラックホール外の人たちに使う。そして、落ちこぼれは全員消えて、父さんたちはデモに怯えなくてもよくなる」

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