煌めき

「有里が飛び出して行った途端、蒼まで飛び出して行った時の僕の気持ち、わかりますか」

 そう言って不貞腐ふてくされる実に礼を言って、私は驚きのまま、背後にいる蒼を振り返った。途端に、ゴンッという鈍い音が宇宙へ散らばった。


「いったーーおい蒼!何する……」


「何するもクソもあるかこの馬鹿。僕がいなかったらお前今頃宇宙の塵となっていたんじゃないか?」


 ふふん、と自慢げに胸を張る蒼。私は文句を重ねようと口を開き、蒼の耳元が赤くなって、顔が白くなっていることを見てとり、素直に謝罪をした。


「すまん……心配かけた」


 ペコリと頭を下げて蒼を見ると、これまでにないほど彼の表情は歪んでいた。


「お前ほどの馬鹿が謝るなんて、隕石でも降るんじゃないか?」

 一言余計すぎる蒼を蹴り上げようと脚を出すが、宇宙のお陰でフワフワとした蹴りしか出せず、蒼に笑われた。


「変なフラグを立てないでくださいよ。全く。本当にここは小惑星の束が襲ってくる位置ですし、移動しましょう」

 そう言って紐を掲げる実を私は思わず抱きしめる。

 目を白黒させる彼に微笑ましさを覚えながら、私は安全運転を心がけ、軌道修正を図る。2人が後ろからついてくることを確認しつつ、宇宙の闇に目を向ける。


 実の助言通り、徐々に多くなる自然の星を間近で見ることができた。紅のように赤い星、冷たそうに見える青い星、それらの光はどれも輝いていて、人工の星の煌めきを綺麗だと認めるのが難しくなってくる。

 私たちがオークション近くの星で紐を離し、フワフワと漂って向かうと、それは急に目の前に広がった。


「何っだこの大きさ……」

 蒼の星ですら呑み込めそうな、一面真っ黒で周りと同化する巨大すぎる星が、そこには広がっていた。


「これ、地球くらいあるんじゃないか?」


 そう私が言うと、実が応じた。


「さすがにそこまでは無いでしょうが、ここまで大きくなると圧巻ですね……どうやって自然の星と折り合いをつけているんでしょう。どうしてここに漂ったままいられるのでしょう」

 実が真剣に考えている横で、同じように顔をしかめて考察している蒼が見て取れた。


「こんなにデカくなっているなんて聞いてないぞ。前はもっと小さかったんだがな」


 蒼によると、前はこの2分の1ほどの星だったと言う。周りから資源を集めて、どんどん巨大になったのではないかと、みんなで考察を図った。


 宇宙の中でここだけ離されても生きていけるだろうな、と考えて、ゾッとした。

(ここに秩序が感じられないのは、それが原因か……)


 この広い宇宙で地球のように、そこだけで補い合える資源に富んだ星を私たちは見つけることが出来ずに、それぞれの小さな星を合体させて過ごしている。その規律すら届かない、絶対的な孤立、独立を宣言しているような星の様子に、私たちは入る前から圧倒された。


(でもこれ、どうやってどこに誰がいるか管理するんだ?)


 帝に、来りゃすぐ分かる、と言われてここまで来たものの、全く入り口が分からない。


 ぺぺぺぺぺ、と私の服から電子音が聞こえて、みんなで飛び跳ねる。

「な……!?」

 慌ててポケットを探ると、見覚えのない携帯が仕舞われていた。通信ボタンを押してしばらく待つ。


「僕の星へいらっしゃい。反応がわかりやすくて助かるよ」

 ニャホホ、と笑うその声に私は噛みつく。


「いい加減趣味が悪いぞ、帝。乙女のポケットに手を突っ込むなんて」

 あれ?という顔で帝はこちらをじーっと見る。

「意外と冷静だね?」


 私は怒りを抑えながら、しっかりとした声で話す。

「さあ、斬は、私の社員はどこだ?」


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