独壇場

「おい、帝。知っているんだろう?」

 みかがお金を数え終えると、私は聞いてみた。

「さあねぇ、私は客の名前を聞くことも覚えたりもしないんだが」

 私は最後のチャンスとでもいう勢いで畳み掛ける。

「ほら、この人じゃないのか?」

 それを見て、みかは表情を変えることはない。寧ろ面倒くさそうにしている。

「ん……?」

 珍しく二度見した帝は、興味深そうに斬の写真を凝視する。

(相変わらずというか何というか、本当にマイペースだな。それにしても、帝が人に興味を持つなんて珍しい)

 しばらくじっと見ると、帝は椅子の上に立ち上がった。

「わぁお!!この子、うちの組を抜けて逃げたやつじゃないか」

(……は?) 

 茫然としている私たちを置いてけぼりにして、帝は上機嫌に任せたような大声で、語り始めた。

「あれは組の1人が結婚するから組を抜けたい、とかいきなり言い抜かしてな。俺はそれじゃあ落とし前つけろっていって、それからが面白かった。

 そいつは斬の相棒だったんだよな。そいつは、あろうことか最後の1円ですらスロットに注ぎ込んでしまう特に馬鹿なやつだったんだよ。嫁さんと一緒に逃げるための資金が足りない、と斬に助けを求めた。お人好しの斬は、全ての責を自分で得ようとしていた。

 まあ、そんな上手くいくはずねえんだよな。斬はとっ捕まえられ、だが漢を見せられた、ということで斬は俺たちの下に顔を見せない、という条件で、あとは不問になった。あいつ、ほんと惜しいよ」


 私はじっと帝の段々ねちっこくなる話を聞いていた。

「それでな、斬はどんどんこのブラックホールの内での生活に慣れていって、どんどん格を上げっていった。あいつ顔は怖いが、ヤクザものの香りがあまりしないやべえやつだからな」

 ぎゃははと笑うと、帝はクライマックスだと言わん限りの音量で叫んだ。

「あいつさ、もう10人は殺してるんだよ」

 全然見えねぇだろ?と獲物を狩る狼のような舌舐めずりをして、仲間自慢をするかのように、固まった私たちをねぎらう素振りも見せずにどんどん話を進めていく。

「あいつは、虎嘯院で組を纏めている人の子供、つまり若君だったんだ」

 私は必死に抵抗する。

「私が会った時はブラックホールの外にいたが……」

 ああ、と非常に、非情に軽く、帝は話す。

「組長が息子である斬を破門にしたんだ。そんなことになって、ブラックホールの外へ追いやられた、というところさ」

あまりに非現実的な話が続いて、私は目眩が止まらなくなってきた。ふわりとよろけても、今は支えてくれるものがない。


「まあ、あいつの無能な父親は斬が今までどれだけの人数まとめあげてきたのか知らなかったんだろな。すぐに仲間に殺されたみたいだ」


 間抜けな話さ、と締めくくった帝は、私の様子をチラリとみて、満足げな表情を編み出す。


「んで、これからが本題」


 まだ何かあるのか、と構える隙すら与えない。


「あいつ、今回のオークションに出品されてんだわ」

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