空白

 男の口からは想像通り、私たちが推測した作戦が語られた。


 男は案外仲間思いなのか、これで全て、といいつつ、常人では気づけない、隠し事があって動揺している時の口の震えがあった。


 私は、男の襟を掴んで、引き起こした。ふわりと揺れるその男性は観念したように、顔をこちらに向けることなく、キチンと筋を通すやり方を選んだ。


「もういいだろ。俺はこれ以上話す気はない。殺してくれ」


「有里?この男、僕に任せてくれないか?」


 リーダの様に堂々と胸を張らせて、蒼を見る。

 蒼は、有里から男を引き剥がすと、男に乗っかり、解剖せんとばかりにメスを取り出して、刃が触れる寸前。

 私は深呼吸を静かにすませて、叱りつける。


「お前な、そういうことするから『マッドサイエンティスト』なんて呼ばれるんだぞ?」


 それに対し、蒼は、遺体を眺めながら、目をギラギラと見開いて、言ってのける。


「この人の魂はもうここには居ないだろ。だったら僕が有効活用したほうが、こいつや、こいつの親に申し開きができるってもんだ」


 私は必死に反論する。威厳は何処かへ飛んでいきかけたが、半ば意地で取り戻す。


「例えそうだったとしても、相手の気持ちを勝手に想像することは、しちゃいけないものだ。彼らの両親は返してほしいかもしれない」


 蒼は苛立ちではなく、疑問を持った透明な顔で、私に質問する。


「返したところでこいつが戻ったり、喜んでいないと知っていても?」


 私は躊躇いなく、そうだ、と言って、説明を続ける。


「そうだとしても、今生きている親たちの気持ちを癒すことはできるってもんだ」


 蒼は熱心に考え始める。それを横目に、男と向き合う。


「では、話してくれるか?」


 わざと恐ろしげに口を歪ませて目を引き絞り、影を意識して自分の位置をさりげなく変えることで、演出を作り出す。


 男の顔に浮かんでいたのは絶望と、希望。それを不思議に思って眺めていると、

みのるの切羽詰まった声が響く。

 私は集中力を途切れさせてしまった。


「何だ、みの……!?」


 目の焦点を合わせることすらできないほど、私は彼に接近していた。


 慌てて飛び退く、のではなく、男の全身を探る。

 目を白黒させる実と、面白そうに凝視する蒼。その2人の前に、男が隠し持っていた大量の道具を、壊れることがないスピードで滑らせる。


「こんなに忍び込ませていたとは……」


 様々な武具、そして日用品や換えの服まで、様々なものが出てきた。


「これで私を襲っていたら、私は即死だな。ということは、敵は私を殺したいわけではなく、味方に引き摺り込もうとしているんだな?」


 答えろ、と、にまり笑ってやると、男の顔の色は更になくなる。


「この……!」


 ん?と聞いてやると、男は1番危険な、とんでもない地雷・・・・・ ・・・・・・・・を踏み抜いた。


「この!化け物集団!!」


 その後もギャオギャオ何かを捲し立てるが、止めようにも、生憎私たちは両手が塞がっている。蒼を引き止めるために私たちが全力で止めるが、怒り狂った彼はそれくらいじゃ止まらない。


「なんっだとこの大馬鹿者!俺じゃ飽き足らず、仲間にまでいうなんて、なんて事をっ…!!」


 まさかの言葉に、敵も含めて私たちも驚く。


 蒼は自分自身が信じられない、というように顔に片手を置いて、よろよろと後ろへ揺れ動く。


「今僕が言った事、聞いていたか?」


 ゆらりとこちらを見る蒼に、頭が取れるのでは、と思えるほど激しく私たちは首を横へ振った。緊張のあまりに口はカラカラだ。


「そうか」


 男の前に器用に漂っていって、座り込む。


「じゃあその目、僕にくれないか?お前には、特別にこの珍しい目を入れてやる」


(やだなぁ……蒼のやつ、めちゃくちゃに怒ってるよ)


 まあ彼なら何も聞き出せなかった、ということはないだろう。だが、


「蒼、いいか?殺すなよ?」


「分かってるさ」


 返ってくる彼の声色から、殺気が見え隠れしていた。

 私たちは彼を信じて適当な場所に座り込んで、2人は警戒、1人は眠る、と分担と時間を決めた。

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