赤が映える世界
「よし、片付いた!」
興奮冷めやらず、妖しく光る目は大きく見開かれていた。
ありがとう、と私が言うと、更に目をまん丸にして、恐らく正気を取り戻したのだろう、周りに散らばっている血は目を潰してしまうのではないかと思うほどで、怪しい魅力があった。
また泣きそうになる彼女をまた慰めて、私は次にやるべき事を頭の中で反芻する。
(確か、ここから紐を使ってオークション会場までひとっ飛び、と言うわけにはいかないんだったな)
それは、旅人の暗黙の了解となっていた。
オークションに行く、ということ自体が
だから、オークションに行きたい時には、何処か近過ぎず、遠過ぎない所に向かう。
そうすれば、気づかれたとしても、ちゃんとルールは守る人だと思ってもらえる。
最初から隠す気がない人たちは、オークションのネームバリューをも下げてしまう可能性があるために、2回目の参加の際にも現場まで直通で行った人は強制的にドアの外に放り出されるのだ。
有里は祖父に、人々の上に立つ人物は闇の部分も吸収しなくてはいけない、と教えてもらっていた為、すんなり頭に入ってきた。実と杏子は眠気と闘っていた。
(いやまあこの分野は私と斬の領域だしな)
時を遡り、斬が仕事を始めた時のこと。
「この情報から何を読み取る?」
という質問がいくつも為される。
まあ、適性検査とでもいうような試験だ。
私は適当に2つくらい出せれば上々だと思っていた。髭に手を当てて考え込んでいた斬が、顔を上げる。
「ここの予算が他店に比べて、いくら収入が見込まれる店舗だということを考慮しても多すぎると思うので、そこの職場にいる全員の人となりを観察して、できれば予算の調整、いきなりは無理だと泣きつかれたらどう改善していけば削減ができるか。
……いや、それよりも先に、削減するとどのようなメリットが、その店員達にもたらされるのか、それをデイスカッションすれば、職場の人間関係が俺達にも見えるようになって、さらに店員たちが交流する場を設けることとなる」
あとはお手上げとばかりに彼はやれやれと首を竦ませる。
「お前、本当に私が声をかける前は、物乞いとして生きていたのか?」
彼は質問の意図が分からず、困惑の表情を浮かべる。形のいい太めの眉が吊り上がる。
逆に私の表情は喜びと絶望の色を表していただろう。
「優秀すぎるだろ。
周りの人間は自分のことで精一杯だし、
どこへ届け出ればブラックホール内に入れるのかも分からない仕組みが、斬のような、有能な人物を埋めてしまっているんだ」
と言って地団駄を踏んだ。
斬は何故か笑顔になった。躊躇いなく、私には勿体無い言葉をくれる。
「でも、だからこそお前と会えたんだろうが?」
にっこりと満面の笑みでそう言ってのけた彼の目に、
「逆だったんだな、私は、斬を救うために、斬と話をしなければいけなかったんだ」
呟くつもりではなかったので、自分の口から言葉が飛び出たことに、とても驚いた。
あの時、斬は、武器を手放すか、手放さないか、迷ってたはずなのだから。
そう考えては、斬が居ないことの不安感や寂しさが、私に押しかけてくる。
実、蒼とはまた違った和かな笑み。
私は、彼と無性に話がしたくなった。
そして私たちは、今日もまた、夜を迎える。
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