彼女は何者……?

「杏子、ストップ」


 私が言うのと同時に、杏子は歩みを止めた。


 じっ、と不満そうに見つめてくる杏子の姿はまるで野生の動物。その目の少し下を見ながら、諭すように、優しく、告げる。


「周りをよく見てご覧?」


 杏子は適当な動作で後ろを振り向く、私がジェスチャーで下だと教えると、それを見た杏子は力を体内にまた仕舞い込んだ。


「ごめんなさい……」


 私は彼女を抱きしめた。抱きしめる権利は命令した私が1番持っていないけど、それでも抱きしめると、少しだけ悲しい気分が取れる、と言ってくれる人だと確信しているから、私は黙って彼女のあたまを撫でる。


「私が命令したんだ。

 私は、自分の星を取り戻したい一心で、皆を危険な目に合わせてしまっている」


 本当にすまない、と言って頭を下げるが、杏子に持ち上げられてしまった。




「私は、自分の意思であなたに付いてきてるのよ。それなのにそんな謝られ方をしたら、本当に仲間外れみたいで泣いちゃうんだから!怒っちゃうからね!!」

 そう言って、柔らかな髪を私に擦り付けるくらい近くに来て、いい子いい子、と私を撫でた。

(私がおじいちゃんの娘じゃなくても、相手にしてくれてたのね)

 寂しい思いや疑念は晴れてはない。だが、少しでも前進出来たのではないか、と誇らしい表情になる。


「それじゃあ、話し合いはその辺で切り上げてくれ。敵が迫ってきている」


 なんで分かる? と言葉を返す前に、蒼が説明を加えてくれる。


「これを敵に付けさせてもらった。お前たちは『上書き装置』と呼んでいるらしいものだ」


 どのタイミングでつけたのか、聞いてもいい?と杏子がお淑やかに聞く。


「有里が止めをさした敵からもらったんだ」


 殺しが行われたにも関わらず、彼の言動はその前の彼と同じだった。


「歳を取るたびに、こう何にも感動し辛くなってるんだ。同級生を何度も看取った。生きるために人を殺したことだってあったさ」


 お前は気にしすぎだ、と言われたが、蒼の瞳には、まだ迷いが行ったり来たりしていた。


「斬くんがいたら心強かったのだけど……」

と言ってから、自分が失言したことに気づく。


(私は別に気にしないんだけど……)


 勿論みんなも大切な仲間だからね!!と杏子は洩れなく全員に話しかける。


「暗い表情になったのが分かったのか、流石だな。

 それの原因は多分、斬にもう少し詳しく裏のことを知ってもらいたかった、というおごりだと思う」


 彼に逢いたい、と素直に言うと、案の定蒼が少しだけ茶化してきた。彼はやりすぎないから弄られるのも嫌じゃない。


 そんな皆に癒されつつ、蒼を先導に、紐のある部屋に向かって歩みを進めた。


 

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