新キャラ登場!

 その大きすぎる星に近付いても、全く建物が見当たらない。


 俺が困って有里を見ると、少し笑って言った。



「ここから入るんだ」


(入る……?)


 俺が疑問に思っていると、有里は星に近付いてじっと見つめ、


手を差し込んだ。


 どうやら小さな小さな穴があるらしい。

 力を込めると、ガコッという音がして、大きな扉が開いた。



「一応防犯のためということらしい。分かる人にはすぐ分かるように、いくつもの入口が用意されているんだ。皆がいるのは」


 そう言って、俺を不思議の国に誘うように、手を広げる。


「ここだ」


 有里にいざなわれて中に入り、彼女の指差す先を見ると、とんでもない景色が広がっていた。


 大きく賑わう市場。

 魚や肉から駄菓子まで並べてあるスーパーに、

沢山の色とりどりの服が並ぶ、店員の独特の甲高い呼び込みの声が響く服屋、

ノートなどの実用的な雑貨が渋く囲われている文具屋等々、

様々な店が立ち並び、大きな声がそこら中から響き渡っていた。

 もちろん一つ一つの商品たちは、紐に括られているか、適当に浮かせてあって、バイトが店外に出る度にせっせと店の中に仕舞い込んでいた。


 その中を掻き分けて、有里とみのるは迷いなくスルスルと進む。




「あら、有里!」


 人混みからはみ出るほどひと回り大きい女の人が、こちらへぴょんぴょん進んでくる。


杏子あんずさん!」


 有里が叫ぶと、何故かみのるはコソコソと場を離れようとするが、その人にガシッと腕を掴まれ、青い顔になった。


「どこ行くの?みのるちゃん?」


 薄い笑みを浮かべながら言う女性には、母親のような強さが感じられた。

 有里がコソコソと教えてくれる。


「小さい頃にみのるは杏子さんに育てられたんだ。杏子さんがよくそのことでからかうもんだから、みのるは逃げ腰になるんだけど」


 そう言って2人の方を微笑ましげに眺める。


「まあお互い好きではあるんだろうな」


 杏子がハッとしたように、新参者の俺の方へ向かってくる。


 近付くにつれ、彼女の、静かで控えめな美しさがよく分かった。


 控え目な睫毛に覆われた黒い瞳、髪は真っ直ぐで真っ赤に揺蕩たゆたい、彼女の情の熱さを表しているようだった。ピッタリとしたズボンにすらりとした足が収まっていて、足を出しているよりさらに蠱惑的だった。上もボーイッシュで、シンプルなシャツを着ている。


「ちょっと君!何その怪我!早く医療室へ行きなさいよ!!」


 そう叫ぶように言われて、やっと痛みがぶり返す。



(そういや怪我してたんだったか……)


 そこで気が抜けたのか、意識が一気に闇の中へ落ちる。






 誰かに呼ばれた気がして目を開けると、目の前に緑の瞳が揺らめいていた。


「うわ!?」


 驚いて思わず動きそうになるが、何かに阻まれて身動き一つ出来なかった。


「動かないで」


 杏子の澄んだ声がする。心なしか、少し動揺を隠そうとする響きが見えた。

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