センター

 暗闇の中に等しいこの場所では、有里が持っている光時計だけが頼りだ。

 上下の感覚もとうに無く、必死になって紐を辿る。途中で何度か宇宙ゴミや自然の星とすれ違うたびに肝が冷え切る。


 みのるが星を探索する磁力機を担当していて、右の方に向かえだの、左の方だのと指揮をとってくれていた。



 協議の結果、一度コミュニケーションセンター、通称センター、へと向かうことにした。

 その場所では、紐が作られている上に、ほとんどの星の紐先が集まっている。

 雑貨や食べ物など、生活必需品や様々な娯楽品等々、ほとんどセンターに集められて売られているという。


 そして、ここからが本題、センターには『宇宙エレベーター』というものがある。

 一瞬とまでは言わないまでも、かなりの速さで、しかも楽に、紐が繋がっている星ならばどこへでも移動できる装置である。


 センターではもっと様々な発明が行われており、現在では、奇想天外な開発をする科学者たちの楽園と化している。


 最高の発明が繰り返される、夢のような場所だ。


 それを聞かされて、俺は当然の疑問を持つ。


「じゃあなんで、派遣先の星や、田口の星に行く時はエレベーターを使わなかったんだ?」



「その理由は単純明快に説明できる」



 有里はこっちを向いたように見えたが、何せ淡い光だけなので、顔がぼんやりとしていて表情は読み取れない。

 声は少し面白がっているように聞こえた。



「金がかかるからさ」



 思わず頭を抱える俺をカラカラと笑って、強かな女社長様は紐を手繰り寄せる。



「言っておくが、この紐だって、かなりの金額なんだぞ。それに、永久にもつわけではないから定期的に交換しなければならない」


 紐が作られたのは地球がなくなる少し前。

 

 地球が住めなくなるということで莫大なお金を投資して、その時、地球内で必要とされていた強度を遥かに超えた紐を作り上げた。

 それにかかった金は途方もないもので、失敗に失敗を繰り返したらしい。


「元々地球に住めていた時でも、宇宙エレベーターの話は出ていたんだ。地球と宇宙を繋ぐもの、ということだったがな。


 ただ、それを実現するには金が莫大にかかる。

 その上、半分娯楽と化していた宇宙への興味からは、あまり金は捻出されなかったのだというな。

 100億円どころか、500兆円もかかる、という計算になっていたもんだからそりゃまあ実現しなかったのも無理はない」


「そんなものをどうやって、危機が迫ってから作ったってんだ?」




 有里の顔に影と光が走った。

 

 俺は悟って頷く。


 言わなくていいという意思表示も兼ねて。

 


 

 彼女の祖父が開発したのだ。

 天才すぎる故に、苦しみを背負うことになった彼は、それでも発明を愛していたのか、

と俺は考えるのをやめられない。






 次第に明るさが増していき、それ・・が見え始めた時、俺は自分の目を疑った。

 


 何せ、センターは、

俺がブラックホール外で見たことのある、

滅んだ後の黒々とした地球ですら飲み込んでしまえるほど・・・・・・・・・・・・・・・・

とてつもなく、大きい星だった。


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