機転

「わかったよぉ!星、いや、磁石?のありかぁ!」






「……はっ!?」

俺ら3人の声が仲良くハモった。


「いや蓮!?どういうことだそれは!?」


 驚きのあまり今度は嬉しそうに取り乱す有里に、蓮はのんびりと答える。


「いやねぇ、牡丹くんが色んな可能性を考えてくれたんだよぉ。その一つにヒットしたってわけだねぇ」


「ちょっっとまて蓮。何を言っているのかさっぱりわからん」


 有里が苦笑しながら言うと、牡丹の声へと切り替わった。


「社長の話を統合するに、その忌々しいにも程がある田口とやらが、政府を出し抜いて自分だけ大金をせしめようと『星』を持ち出した可能性もある、と考えたのです」


 彼のその後の話を要約すると、うちの会社と取引をしたことがある田口でもなければうちの会社、ましてや社長室になんて入りようもないらしい。


 何故だと聞くと、内緒だよぉ、と蓮に可愛く言われたが、今日の彼女を見る限り、侵入者はそれこそ宇宙のちりにでもなりそうだ。


(なんてったって初対面が初対面だったからな……)




 嬉しくてたまらない、と全身で表しながら機械をバラバラに分解し、溶接して、あれはこうだの、これはどうだのと俺に説明して、フェイスガードの奥からキラキラと目を輝かせてはしゃいでいる彼女の姿が頭に蘇る。


 事務所の機械の修理と機械操作は彼女が行っているらしい。

 

 牡丹はああ見えて人心掌握が得意らしく、派遣先を見つけてきては、派遣する人を捕まえてくる。経理管理までしているそうだから頭の中を覗いてみたくなった。

 まあ生憎、会社の人達にその能力を行使する気は全く無いようだが。



「それじゃあ田口が社長室に入ったとする。だが彼は、自分の星を破壊して私達を撒こう、と考えられるほど肝は座ってないはずだぞ?」


 ふふっと意地の悪そうなバリトンが電話口に響く。


(うっわまるで悪役じゃねえか)


 やっぱり有里が選んだ社員達は面白い、と俺もつられて少し笑いを漏らす。


「俺の計算に狂いはない」


 言葉を失う俺らを救おうと、蓮が説明を加えてくれた。


「えっとぉ、牡丹ちゃんの言葉を訳すとねぇ、『田口が政府の言いなりになるとは思えん。それほどまでには馬鹿ではない。よって、田口は政府の人間に殺される前に、どこかで星を現金に変えて、とんずらしようとしてる。ならば、大きな金を動かせ、しかも客の匿名性を大事にして、尚且つ守ってくれる、『オークション』に向かうはずだ、と推測した俺ってすげぇ〜!』って言ってるんだよぉ」


 いたぁっという声とともに、ゴッという鈍い音が聞こえた。


「もぉ〜暴力反対だよぉ」


「ちょっと小突いただけだろうか」


 実際全く痛くなさそうな音だった。案の定、蓮は何事も無かったかのように話し続ける。


「それでぇ、私が検索かけてぇ、星が出品されたオークション会場を見つけてぇ、ってのをさっき社長の話を聞いた時から行っていたわけなのだぁ」


 ブイサインをこっちに送って茶色の瞳を嬉しそうに細める彼女を想像して、思わず顔が綻ぶほころ


「声真似の時は普通に喋れるのか、ってか声真似やたらうめぇな」


等々、ひとしきり俺たち3人でめいっぱい褒め称えた後、有里が表情を引き締めて、話を先へと進める。


「それで、どこに出品されていたんだ?」


「それはねぇ……」


 次の言葉に、俺たちは特大のため息を漏らした。






「まるっきり方向が逆って……そりゃないぜ……」


 思わず吐き出すように愚痴を漏らし、俺は有里をふわふわと追いかける。

 こんな大移動は、さすがに今までしたことがない。

 その上、田口の星が爆散した今、辺りはただでさえ暗くなっていて、そこから遠ざかっていく俺らは、どんどん暗闇へと連れて行かれた。

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