男の感覚
『出来損ないの星』を知っているかもしれない、という男は、田口信夫、というらしい。
「おじいさんとお嬢、随分仲が良かったんだな」
そう言ってやると、有里はまた俯いてしまう。
「友里は物心つく前にお爺様を亡くしているんだ」
「え、じゃあ何で祖父の交友関係まで知ってるんだ?お嬢の父親に話してもらったのか?」
そう俺が言うと、彼女は黙って俺に本のようなものを手渡してきた。
(よく分からないが見てみろってことか?)
と、パラリとめくる。
「うわ!!?」
ゴンッ!!
文字通り飛び上がって、天井に頭をぶつけてしまった。
頭を抱えてふわふわしていると、思わずといった調子で吹き出した実が引き摺り下ろしてくれた。
磁石が床にくっつくのを確認して手を離す。いや、それどころじゃない。
「お前!これ新田さんの日記じゃねぇか!」
飛び上がった時にどこか紙が折れていたりはしないか、と古そうな茶色の紙を恐る恐るめくる。
良かった何処も折れたりしていない。一息つき、有里を見る。
強い目を向けて、有里は説明する。
「そうだ。私の祖父の日記。これから色々な事を学んできた。経済の動かし方から、競争相手になりそうな企業まで、全部記してある。父の代のものは父が付け足してくれたものを持っている。そしてそれらによって、
私は社長という責務を全うしてきたんだ」
だから、と言って自分を抱きしめた彼女は、儚く、美しかった。
「あの星も、私がちゃんと立つためには必要なんだ」
俺は、今にも泣きそうな彼女を気遣って目を逸らし、パラパラと適当にページをめくる。
その一瞬、手がある違和感を覚えた。慌ててページを巻き戻す。
額に汗を浮かべてページをめくる俺に2人は不思議そうな顔をしていたが、俺はそちらを見ている間も無いほど驚いて、自分の発見を指で探っていた。
(あった)
じっと一枚のページを見つめ、焦ったくなるほどゆっくり、ゆっくりページを
破いていく。
2人が度を失って止める前に、作業は終わり、
2人は唖然として、側にペタペタと近付いて、覗き込む。
段々と見開き始める皆の目と共に、有里の絶叫が鮮やかに光る部屋に響き渡った。
「なんだこれは!?」
切迫した声と真逆に、俺は場に似合わぬ笑いを漏らしそうになった。
彼女の祖父は恐らく、雑誌の綴じ込みが大好きだったのだろう。その原理と同じく、薄い用紙が二つ折りになっていて貼り付けてあり、普通に読む分には気付かないように、『それ』は隠されていた。
何で気付いたか、と彼女に聞かれなくてよかった。
まあ言うなら、大人の事情、ってやつだ。
彼女の祖父は、彼女ではなく、自分の息子、
つまり彼女の父に向けてそのメッセージを託したはず。だが彼には親を亡くしたショックから分からなかったのだろう。書いてあることからも、彼が受けたショックは計り知れないものがある。
その隠された日記には、「出来損ないの星」の事が詳しく書いてあった。
持ち主の有里ですら知らなかった、とんでもない事が。
世界をひっくり返しかねない、とんでもない事が、書いてあった。
〜あれは危険すぎる。
『出来損ないの星』として噂を流し、
初の星だと有名にして、
情報を錯乱させよう〜
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