平等な不平等

 その数分後、ざんは仏頂面になってむくれていた。


 いつものことながら毎度からかわれるので、いい加減うんざりなのだ。ぽかんとした顔で、「佐藤さん?」と聞き違えた有里は悪くない。

 悪くないのだが、いかんせん、隣の青年は馬鹿笑いをしていた。


「よかったじゃないですか!早速あだ名が決まりましたよ!」

 明らかにじゃれつくように言うみのるに、斬はプイと顔を背ける。

 こらこら喧嘩しない、と言いながらも、少し笑いを堪えきれていない有里を見て、斬はため息をついた。


「そういえば、うちの会社がどういうものなのか、紹介していないな」

 有里はコホン、と一つ咳をして、勿体ぶったように伝える。


「私の会社は、人が平等になるために作られた・・・・・・・・・・・・・・会社なんだ!」

 どうだ、とばかりに顔を近づけてくる彼女に、斬は思わず苦い笑いを浮かべる。

 彼女が不満そうに口をすぼめると、斬は、何処ででも聞くことが出来る話を論じ始める。

「いいか?この世界は知識と金が全て。何かしら特技か、もしくは金がねえと何処の星にも属せない」


 すぐさま有里が口を開く。

「それは元々、平等にしようとして作られた仕組み・・・・・・・・・・・・・・・・、法、なんだぞ?」


「は…?」

 絶句する斬は、嘘を言わなそうなみのるを振り返る。彼はいとも簡単に、頷いてみせた。


「佐藤さんは、ころころ表情が変わって面白いなあ」

 くすくすと笑う有里に、佐藤は反応できないままだった。


 小学中学までは強制的に磁石が配られ、学校に住み、そして卒業と同時に回収される。

 一応歴史は、斬の得意分野だったのに。

「……俺はそう教わったんだが」

 さらに言葉を繋ごうと口を開きかけて、彼女を見、口を閉じた。


 こちらを見て、淡い悲しみを浮かべるエメラルドのような瞳に、斬は全てを悟った。


「歴史は、意図的に改竄されている…?」

 コクリとうなずく有里。

 それでも斬には理解できないことがあった。


「どうしてそんなことを?」


「人間、誰しも自分が一番可愛いんですよ」

 みのるが容赦なく割り込む。耳を覆うくらいの短い茶髪が、目の前に迫るように感じた。


「どんどん差別化が進んでしまって、それで損をしている人に、発言権はない。それになにより」

 そう言ってニヤリと笑う。その青い瞳に何が浮かんでいるのか、斬には読み取れない。


「作れる『星』は、限られている。故に、お金と、才能だけが、力となったのです」


 暗い笑みを塗り替え、みのるは今度は気軽に口を開ける。口から出た言葉は、全く、軽くはなかった。


「私はそもそも、はたしてどうなるのが平等の正解なのか、正直分かりません」


「そこでだな」

 有里がタイミングを合わせたように話を引き継ぐ。


「私の会社は、過去からずっと人間たちが夢見てきたことを叶えるための、それが出来ずともせめて叫ぶための、会社なんだ」


 その時ようやく、皆の磁石が、彼女の『星』に付いた。

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