残酷な仕組み

 その『星』たちは、ふよふよと漂ってくる自然の星・・・・にぶつかっても平気な様に、柔らかい素材で出来ている。

 その上に、四角い箱がいくつも乗って、『星』に固定されている。それは、人の住む場所・・・・・・だったり、事務所・・・だったりする。


 大概、一つの『星』に、一つの会社だが、

中には親会社と子会社が、同じ『星』で暮らしていることもある。

 故に、大きさは異なるが、隣の『星』は5人くらい入れるだろう小屋が5個ほど。

 一方、彼女の星は一際大きく、人が10人は入れそうな建物が、ざっと見て100個は並んでいた。建物間を広々と開けて100個並んでいるのを見るのは、かなり壮観だった。


 安全面から当然、箱も柔らかく、

ウニョウニョと形を無重力下で変えていくその様子は、少し

……というより、かなり、異様だった。


 微笑ましげに眺める有里にも気づかず、

才を認められなかった男は、今まで近づけなかったそれを、目に焼き付けるようにしていた。


「ほれ」

 放って投げられたのは靴裏に付ける小さな『磁石』。

 これが、男が『星』に住めなかった仕組みだ。

 『星』からは、強力かつ人には無害な磁波が生じており、それに合う特定の磁石・・・・・を持っていないと、足をつけて『星』に立つことすら、つまり、地面に立つことすら・・・・・・・・・出来ないのだ。

 それでも人は、眠らずにはいられない。

 無重力下で、人がただ気ままに漂って浮かんでいたら、毎日大移動することになってしまう。

 自分が起きた時、どこにいるのか分からない、というのでは、群れを作らなければ生きていけない『人間』には堪らない。実際男は、食料の調達だけでも毎日必死だった。そのことについては、また後日説明がある事だろう。

 それに、自然の星に突っ込まれて死んでしまう事故も、往々にして起こる。

 男が信じられないようにその小さな石を見つめ、少し苦々しい顔になった。


「どうした?」

 それを目ざとく見つけた有里が問う。その視線は先ほどまでとは異なり、慈悲に満ちていた。

 それに促されるように、男の口は自身も驚くほど、勝手に喋り出した。


「いや……

こんな、小さな黒い石・・・・・・がないために、俺は今まで四苦八苦して、劣等感を育てていたのか、と思うと、笑えてきてな」


 はは、と力なく笑う男に、有里は黙って首を振る。

 怪訝そうな男を真っ直ぐに見つめ、彼女は言う。


「笑えないよ。こんな世界」

 ギクリと身を痙攣らせたのはみのるだった。彼女の危うさが滲み出るその言葉は、男の心に染み渡った。


「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。私は石井有里、こっちは秘書の瀬戸内実せとうち みのる


 そう言って静かに、周りの光を集める緑色の目で、見つめてくる。

 柔らかい視線を受けて、男は口を開く。


佐藤斬さとう ざんだ」

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