月は、ときどきひとりで 4/7
――返事をもらえるとは思ってませんでした! すごくうれしいです。この間のゲーム配信を見ていて思ったんですが、はてなちゃんってゲームの才能すごくないですか? 僕、「Desired Land」ってFPSが大好きなんです! もしよければ、今度のゲーム実況ではこれをやってみてくれませんか? 学校の友達は誰もやってなくて……。はてなちゃんは中学生活どんな感じでしたか? 楽しかったですか? きっと人気者だったんだろうなあ……。僕もはてなちゃんと同じクラスになりたかったです。
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「あ、そうそう。次に実況するゲーム決めようと思ってたんだよね。みんなは何がいい?」
基本的に果奈は早寝早起きの生活を送っているから、配信の時間は昼間に集中する。
平日は会社勤務の社会人が視聴できない。だから今日みたいな休日が一番視聴者数を稼げて、コメントも溢れる時間帯だった。
「わー、コメントが速い速い。みんなゲーム詳しいんだね」
今日の配信のコンテンツは雑談だった。
配信をするときは、大抵何かメインになるものを決める。映画を撮るときにこれはゾンビ映画にしようとかサメ映画にしようとかいやいやサメゾンビ映画にしようとか考えるのと同じで、配信をするときはするときで、どんなジャンルの配信をするかを事前に考えるものなのだ。
たとえばゲームをプレイしながらそのプレイングとリアクションを見せるゲーム実況だとか、ギターを手に視聴者のリクエストを聞きながら歌う弾き語りだとか、あるいは激辛らーめんを早食いして鼻から噴出するしょうもないお笑い企画だとか、そういうの。
数あるコンテンツの中でも「はてな」が最も得意とするのは、何の工夫もない雑談だった。
簡単なものだ、と果奈は思う。何せ生来の超能力のおかげで、コメント欄をぼーっと見ているだけでリスナーたちが何を求めているか丸わかりなのだから。
「あ、それ知ってる! ほのぼのスローライフ系でしょ?」
これが一番望まれてるな、と思ったタイトルをコメント欄から拾って、
「わたし、全然やったことないんだよね。……え? 友達がいないと楽しくない? い、いいいいい、いるし! 友達くらいいるし! 楽しくできるし!」
果奈がV活動を始めて意外に思ったのは「友達がいない」というのが弱みではなく強みになることだった。
実際、いまの発言をしてからのコメント欄には「無理すんなw」「かわいそう……」「俺らが友達だから……」なんて発言が溢れて、リスナーの嬉しさが滲み出ている。
独占欲か何かの変形なのだろう、と果奈は思っている。
実際のところアイドル活動と学校生活を長年両立してきた結果、友人関係はほとんど壊滅的になってしまっているから、特にこういうアピールに嘘はなく、後ろ暗さを感じることもない。そして交友関係の乏しさを必要以上に気にしているわけでもないから、ネタにして心が痛むこともない。便利なパーツはすり切れるまで使う。
次のゲームはこのタイトルにしようと決めた。初回含めて何回かは無邪気な感じでゲームを楽しんで、同時に何となくもの悲しい感じも醸し出しておく。それからリスナーとの通信交流企画をやれば、それなりに盛り上がるだろう。ゲーム自体が最近流行っているものだから、ひとりプレイの部分を上手くできれば新規層も取り込めるかもしれない。
うん、それでいこう。
そう決めてから、ふと、
「そういえば、『Desired Land』ってゲーム聞いたことある?」
しまった、と思った。
よくないタイトルを口にしてしまったらしい。コメントの色が、少し翳る。
「デザランはなあ……」「はてな向きではない」「FPSとかできるの?」「画面酔いすごそうw」「でも銃乱射して人を殺すはてなちゃんも見てみたいかも」「そういうのはトトちゃんに任せた方がいい」
「―—あー、そうなんだ。難しいんだ。……いや、みんなわたしが難しいゲームができないってナメてるなあ!?」
茶化すように大声を出してやれば、コメントの色も元にも戻る。「草」「どこからその自信は来るんですか……?」「はてなちゃんも大概ぽんこつなんだよなあ……」と流れてくる言葉を見つつ、果奈は心の中で思う。
まあ、義理くらいは果たしただろ。
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