201×年11月×日

 最後の一日になるだろう、と感じていた。


 意識は覚醒しているのに、視界がおぼつかず、四肢がよく動かなかった。

 脳は酸素が足りないみたいに呆けていて、身体を起こすのも億劫になっていた。


 眠気に耐えきれず、再度、俺が眠りに落ちようとすると、カリカリとペンを走らせる音が聞こえた。


 首だけ動かして音の出所を確認すると、誰かが俺の机に座っていた。


 机の上にはノートが広げられていて、傍らには本の山が二つそびえ立っている。

 ここで俺は、フワフワとした思考の中、違和感を覚えた。


 ……果たして俺は、あんなに本を持っていただろうか。


 視界の先には、見覚えのあるタイトルの本が並んでいる。

 そのどれもが似通っていて、同系統の内容であることが察せられる。

 それが過眠症に関する本であることも知っている。ただ、それでも俺が所持しているのは十数冊といった所だ。見る限りその倍はある。


 だとすると、これは誰かが持ち込んだものであると考えがついた。

 そしてそれは、目の前のコイツであることは容易に想像ができた。


 誰かは椅子から立ち上がり、伸びをする。俺は睡魔に耐えきれず、その誰かが誰なのかを特定することなく瞼を閉じた。


 最後の眠りに落ちる直前、ソイツは俺の元へやってきて頭を撫でつけるように動かした。



「待っていてください、夢寺くん。何年、何十年かかっても。私の時間の全てをかけて、貴方の時間を取り戻します」



 田村ゆかりのように優しい声音だった。

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