第3話「浮田の憂鬱」



愛宕はまぁまぁ踊れるし、飯田に至ってはモダンダンス部でも十分にやっていける素質があるだろう。しかし俺はどうだ。確かにモダンダンス部にも初心者コースはある。一年生が門を叩くのは問題ない。一方で二年生から入っていくのはどうだろう。しかも一年間ジャズダンス部で経験を積んだ人間が上級者集団の下方カーストに突っ込まれるのだ。流石にそれは辛いものがある。二年生でありながら一年生たちと同じ練習をしなくてはならないし、ある程度能力のある下級生は俺ごときを簡単に超えていくだろう。確かに部活動に取り組むというのは根本的に上手い下手が全てではない。それでもマイペースでできるかどうかは別問題だ。俺には俺のペースがある。全国なんていう高望みはしないから楽しい範疇で練習をしたい。上昇志向がないわけではないが、突然全国区を目指す奴らもいる集まりに放り込まれたら才能ない奴の上昇志向なんて何の意味も持たない。


だからこそ、この場所が俺には必要なのだ。



「俺みたいなズブの初心者にとってはこの場所じゃないといけないんだ。初心者コースがあると言っても根本的には全国を目指す集団なんだろう。それじゃあ初心者にとっては肩身が狭いよ。」率直な意見を口にする。惨めであることは痛いくらいにわかっている。それでもこうやって本音を口に出していかないとマイナーな側として永遠に闇に葬られてしまう。それならばたとえ敵わなくとも声を出していかなくてはならない。


同じ高校にダンス部が二つ存在するこの状況は自然とは言い難い。愛宕はみんなを引っ張っていく役割としてこの人気度の落差に対する言い訳や部員数の減りように正当な理由を付けることはできないだろう。


それに俺だって何も考えていないわけではない。少なくともモダンダンス部に合併されなければなんだって良いんだ。俺たちが何か答えを出すことができればきっと解決の糸口をつかめるはずだ。

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