第7話「ニール・アームストロング」



辺りが暗くなり、空に月が煌めく。この月が、今日の私をクマにする。そう確信した私は疲れるまで本を読みふけり、夜の10時を回ったところで眠りについた。浅い眠りを経て、気が付くとクマになっていた。



ついにこの時が来た。辺りに人はいない。



窮屈になったテントを出ると、そこに私だけの空間が広がっていた。黒い空、光を通さない木々、湿った地面、そして毛むくじゃらになった私。思わず遠吠えをしてしまう。どんなに叫んでも誰の耳にも届かない。一歩ずつ歩み出す。足元のことは何も気にしなくて良い。床が抜ける心配とは無縁の世界だ。四足歩行などしたことがなかったのだが、自然と足が動き出す。走るという行為はあまり自然のものではないためか、最初こそ踏み出し方が掴めなかったが、徐々に速度を上げられるようになる。


私を止めるものは誰もいない。草むらや大木の根が邪魔になるかと思われたが、強靭な爪の前では何も気にならない。気の向くままに走り散らす。どんなに走ってもその好奇心は留まることを知らない。



ふと空を見上げるとそこにはいつもと同じように月が君臨していた。



That's one small step for man, one giant leap for mankind. (これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である。)



1969年7月21日、ニール・アームストロングは人類史上初めて月に到達した人物となった。月は地球と比べて重力の影響が少ないため、身軽に動くことができる。ニール・アームストロングを含む月面着陸を最初に成し遂げた3名は星条旗を月面に突き立てることで、人類が月に降り立った証をその地に残した。月は相変わらず空に浮かび続けている。

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