第4話「人間も動物である」



次の月曜もまた熊になった。これが3度目の熊だ。前回熊になった際は興奮のあまり両腕を振り上げそうになったが、天井に太い爪をぶつけそうになったのですんでのところで引っ込めた。考えてからの動作がとてつもなく素早い。人間の姿のままだともう少し動きが緩慢であったはずだが、熊の動きは全く異なる。湧き出すエネルギーを留めることができない。



思わず動き回りたくなるが、今回もちゃんと我慢をする。立っているだけなのに床がギシギシ音を鳴らすし、走り回ったりしたらいつ床が抜けてもおかしくない。床を突き破りこの姿のまま下の階に飛び込みでもしたら取返しのつかないことになる。夢でないことは既にわかっている。危険な橋は渡るべきではない。



その日は高鳴る鼓動を抑え込むこと以外どうすることもできない自分に苛立ちもしたが、なす術もなくそっと床に横たわって寝ることにした。外に出て駆け回りたい気持ちは相変わらずあったものの、恐怖が打ち勝った。現実的でない状況だが、発想だけは現実的であり心の底から助かったと思える。



何の反省もないままに3度目の熊を迎えた。このままではどうすることもできない。それでも外に出たい。声を出せるかどうかはわからないが、恐らく声はそのまま雄たけびになるだろう。喉を幾度となく突いてくる衝動に負けそうになるが何とか持ち堪える。



どうやら晴れた日の月曜に月をじっと見つめるとその深夜に熊になるらしいことがわかってきた。メカニズムなどの細かいことまではわからないが、1度目も2度目も晴れていたし、そして月を見ていた。先週の月曜にも試してはみたものの、空が曇っていて月が良く見えなかったためか、熊になることはできなかった。今回は空が晴れていて月をしっかり見ることができたので熊になったのだろうと推測する。



お伽噺に登場する狼男の行動も今なら信じることができる。幼少の頃からやけに現実的な思考を持っていて、狼男が外を出歩くということを疑問に思っていた。仮に自身が狼男になったとして、そんな姿で外に出たら確実に面倒なことになるので自分なら絶対にそんなことはしないと考えていたが、今ならそんな狼男たちの気持ちが良くわかる。獣の姿になると自身の力を無性に試したくなるのだ。誰かに見つかったとしても構わない。走り回り、叫び回り、へとへとになって力尽きるまで動き続けたくなる。そんな活力がどこかから湧いて出てくるのだと不思議に思う程だ。有り余った力を存分に発揮したくなるというのは動物の本能なのだろうか。人間だけは動物でないというのは大きな思い過ごしだ。人間も動物なのである。

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