第6話「千差万別」
ありきたりな論だなと思いつつも、最新のニュースを知っていることに驚く。良く教育されていると感心してしまう。確かに不正を働く人間しか狙わないのは自分の弱さではあるのだが、弱い人間を狙うのはもっと弱い人間だ。
しかし彼の説明に“派手なやり口”とあったが、それは間違いだ。バレないように入りこみ、ぱっとみではわからないほどに痕跡を残さず物件を後にする。それでも持ち出す金額はそれなりの額になるようにする。それでないと1ヶ月張り込んだ意味がない。自分への褒美も与えられないで何が仕事だ。今回は富豪の勘が鋭かったこと、自分が被害に会ったことをさも珍しいことかのように周りに言い広めたことが事件を大きくした要因となった。もっとひどい被害に会わせた者もいるが、ここまで大きな騒ぎ方はされなかった。これが人間の器というものだろうか。
こういったケースは決して少なくはない。空き巣の被害をこれでもかと誇張し、いかに自分が金持ちかということをアピールする者がいる。空き巣犯は計画的に犯行を実行し、そうなると当然自身がそれなりの資産を持っていることも調査済みだということを言外に周りに触れ回る。金持ちばかり狙う同業者もいるが、当然そんなことは気にしない者もいる。
空き巣だって千差万別、十人十色だ。様々なやり口、動機がある。外観の様子や住民の身なりで空き巣に入られる率が変わってくるという論があるが、あれはデタラメだ。どんな外観をしていようが、生活環境がどんなものであろうが、住民の民度がどういったレベルだろうが、そんなのはプロの前では一切関係がない。入ろうと思えばどこへでも入って行けるし、入りたくないと思えばそれまでで終わってしまう。気分で選ぶ者もいれば、義憤から選ぶ者もある。物理的な汚さから手にしたくないと思う者だっている。どうせ出ていくものなのだから気にすることなんてないのに、潔癖な性格はこれだから不便だが、ある程度そういった感覚も備わっていないと務まらないほど繊細な商売なのかもしれない。
これほどまでに色々な性格の者がいるということを、この保険屋の営業の青年は把握している。だからこそ一生捕まらないままの犯人だっているし、それに不安を覚える一般市民がいるわけで、そんな彼らのために保険屋がいて、保険屋業というものが存続しているのだ。空き巣のお蔭でこの彼が食べていけているというと、他にも様々な保険があるので少し言い過ぎではあるが、少なからず我々の働きが彼らを生かしているのだ。
そう思うといじわるな質問をしてみたくなる。
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