第5話「何も言えない」
空き巣の被害はケースごとに異なり、犯人の腕と勘一つでそのクオリティが大きく異なる。極々少ない額を手にしたら家財などには一切手を付けずにその物件から離れる者もいれば、派手に持ち出す者もいる。同一のエリアは大体どこも似たような隠し方、防犯方法しか取っていないので複数件で稼ぎを上げてから次のエリアに移る者もいれば、足が付くのは怖いからと1つのエリアで1件だけ仕事をして次々とエリアを変える者もいる。数日おきに狙っていたいくつかの物件を立て続けに狙う者もいれば、金持ちの家を1ヶ月程度張り込んで一気に仕事を仕上げる者もいる。
空き巣に王道はない。あの手のこの手でみんなやり繰りしている。
そんなことを伝えると、主人は少し悩んだ顔をした後に、一番最近起こった事件を聞いてきた。ただの保険屋であればそこまでは知らないだろうが、私は保険屋ではない。空き巣を稼業としている身として、空き巣についての情報は絶え間なく仕入れている。同業者と同じ手を使ってしまえば運悪くお縄にかかってしまう確率が上がるし、そもそも同一エリアではしばらく仕事をしない。もちろん、情報が遅れていて同時期の犯行ではなくとも同時期に発覚してしまう場合もあるが、それだけ情報が遅れていれば同時多発的でもそこまで気にせずに済む。仕事が終わってしまうと、足さえついていなければ何も問題ない。
話題が逸れてしまったが、最近起こった事件はある富豪の財産が狙われた事件だ。つい2日前に発覚したもので、これよりも新しい情報は今のところ入ってきていない。被害者はどうもよろしくない商売で稼いでいるここ最近の成り上がりらしく、恐らく犯人は懲罰感覚で裁いたのだろうが、そこまでは保険屋としての口からは発言できない。そういう正義の味方というのはこの業界にも少なからずいる。入りやすいところから狙うのではなく、不正を犯している人間だけを専門に狙う者がいるのだ。そういう人間だけを狙うことで罪悪感を和らげているのだろうか。それはそれで人間としてどうなのかと思うが、同じ業界に身を置く立場としては何も言えない。
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