第4話「リトマス紙」



嫌に前向きな感じで質問をしてくるので、ここは真摯に対応するしかない。この会社の保険にどれだけ興味を持たれたところで私には一銭の価値にもならないのだが、保身のためには仕方がない。



保険について簡単に説明するのにあたり、まず相手の知識量を測る必要がある。この手の説明は詳しい人に細かく説明するのも、あまり詳しくない人に飛ばし飛ばしの説明をするのも同じくらい意味がない。相手のレベルに合わせた説明をしないと、展開が早すぎたり遅すぎたりする場合がある。反応を見ながら、ゆっくり、丁寧に、ときには速度をつけて説明を進める。



しかしそれでも必ず説明しなくてはならないリトマス紙的な説明がある。それは「みんなからお金を預かり、その元手から誰かが困ったときに援助をするものなんですよ」という説明だ。この台詞に対する反応で次の説明を決定する。



相手の理解度を推し量りながら保険の種類を説明し、適当に会話を繋いだところで今売りたい保険の導入へと進んでいく。今回の主人は保険にそれなりに精通しているようで、この辺りの説明はさも当たり前といった風で聞いている。



今回は空き巣被害に対する保険の説明をするわけだが、今までこの手のきちんとした保険は存在しなかった。これまでは火災保険が窃盗被害をそれなりにカバーしていたのだが、火災保険はあくまでも火災時の対応がメインになるので空き巣被害の保証は二の次といった扱いであった。



私が名前を借りている会社は保険の商品を手広く展開している会社で、その種類は多岐に渡る。健康保険はもちろんのこと、事故保険や火災保険なんかもある。



先ほど述べた通り、空き巣被害の一部には火災保険が対応していて、貴重品が盗難被害に会った場合は保険が適応されていくらかが返ってくる。しかし現金の保証まではしてくれない。それがどういうわけだかこの会社は、空き巣に対する保険を作ってしまったのだ。空き巣被害についてどれだけ正確な情報を入手できるというのだろうか。細かい話まではわからない。それでも何らかの審査方法があり、しかるべき手数を踏むことによって保険金が下りるというものなのだろう。



この保険の概要を簡潔に説明すると、主人が保険の説明から少し話題を逸らす様な質問をしてきた。



「空き巣の被害とは、実際はどんなものなんですか?」

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