第33話 遠く先を征く者(ガリウス視点)
自分を特別な人間だと考えたことあるかって?
あるに決まってんだろ。
このベヘリットで槍使いのガリウスといえばちょいと知れた名だ。
腕っ節の強さと要領の良さと運の引き。
冒険者に必要なものを一通り持っている俺にとっては人生は楽しく面白みに満ちている。
……が、あそこまでいくとどうなんだろうね。
俺たちの先頭を走っている恐ろしいまでに美しい騎士。
ナイツオブクラウンのユキは白い悪魔とさえ称される吹雪を一粒たりとも浴びていない。
奴の大魔術は千は超えるだろうこの大軍を包み込み、俺たちは今まで味わったことのないほど快適な行軍を続けている。
いきなり総督になったヨシュアに至ってはあのシュゲルを指先一つでのしちまったらしい。
もはやその強さは想像がつかない。
ハッキリ言って全部あいつらに任しちまえばいいんじゃね?
って思わなくもない。
北面騎士のようなプライドもないその日暮らしの冒険者としては誰が窮地を救ってくれても腹は痛まねえ。
とはいえ、ここに来ちまっているのは俺にもプライドみたいなもんがあるからだろうな。
昨日の市街での混乱を抑え込むために俺は東奔西走し尽くした。
その甲斐あって同士討ちを避けることもできた連中もいたが、間に合わなかったものもいるし、市民で巻き添えを喰らわしたものもいた。
一冒険者の割にはよくやったと思う。
実際、あのユキってのには直接褒めてもらえたし。
だけど、全然納得いくわけない。
だからそのムシャクシャをぶつけるためにここにいる。
ベヘリットの冒険者や騎士は同士討ちをするだけで役に立たず、たまたま訪れた本国の皇子様たちが全部解決してくれました……なんて語り継がれてたまるか!
『北の大地に集いし猛者どもよ!
百年、千年の先にも語り継がれる英雄譚の主役は我々である!』
新総督の言葉を反芻する。
なってやろうじゃないか、英雄とやらに!
俺たちは普段の三分の一の時間でシャッティングヒルに辿り着いた。
この異常な速度の行軍を仕切ったナイツオブクラウンの二人もシャッティングヒルの巨大さ荘厳さに言葉を失っているようだ。
北元郷の境界線に反り返るようにそびえる雪壁の長城。
高さは一〇〇メートル、幅は五〇キロメートル、その分厚さは薄いところで三〇メートル。
この北の大地に人が棲む事を許した神の慈悲ともとれる奇跡の風景は見るものを圧倒する。
何十回とここに来たことのある俺でも柄になく敬虔な気持ちになってしまう。
よそ者の二人が圧倒されるのは当然――――
「やってみろ、ユキ」
「ああ」
ユキの手から火柱がシャッティングヒルに向かって放たれた!?
わー、無詠唱魔術だー、はじめてみたぞー…………って目を背けている場合じゃない!
アイツら何をっ!?
俺の焦りを置き去りにするかのように火柱は壁に直撃――する直前に忽然と姿を消した。
「干渉拒絶の因果式が印された空間……それがこの絶対防御壁の正体か」
「ご名答。世界四大トンデモスポットに入れても良いくらいだろ。
魔術はもちろん攻撃の意志を持った干渉には作用されない不思議空間。
これを破ったということはなんらかの魔道具を使って地道に掘り返したのかねえ」
ユキとヨシュアは呑気そうに考察なんかしてやがる。
周りはみんなドン引きだよ!
あと、そのナンタラカンタラなんて知らなかったぞ!?
たしかに近くで戦闘しても傷ひとつつかないとは思っていたが。
「魔術による修復は不可能。
当初の予定どおり土木仕事に取り掛かるか」
ヨシュアが手を掲げると資材を載せた荷馬車とともに工兵達が雪壁の穴に向かう。
「さて、ここからが本番だ。
雪壁の内側の防衛班は扇状に陣を展開!
魔獣どもを穴に近づけるな!
外側の防衛隊は密集陣形!
壁の上からの援護を受けながら寄せて来る敵を各個撃破せよ!」
そう言って総督自ら先陣を切って穴から雪壁の外に出て行った。
作戦目的はシャッティングヒルの修復。
その工事が完了するまで防衛線を維持する。
シュゲルをも上回るというナイツオブクラウンの騎士が二人いるのならば決して難しい任務じゃない。
だけど…………どうもアイツら何かを隠している気がするんだよなあ。
本当にこの戦いって壁を直すだけで終わるのか?
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