第25話 死力を尽くして

「よくやった。モーモント。

 さて、あの夜以来だなぁ。

 やはりここまで参りおったか」


 城の中央にある総督との謁見場である広間。

 俺の騎士任命の儀式を行った際、総督が座っていた椅子に収まっているのは副総督のジェラード伯爵だった。


「貴様……生きてやがったの――――グフっ!」


 モーモントと呼ばれた六天騎士団の男が発した魔術の枷で縛られた俺は腹部に突き刺さるような激痛に悶え苦しむ。


「下賤の者に野蛮な口の利き方を許す貴族なぞベイリーズぐらいだぞ。

 ワシはそういうのは好かん。

 覚えておくんだな。

 まあ、どうせ短い付き合いになるがな」

「カ…………ハッ…………」


 痛みが止んだ。

 だが、身体が麻痺して力が入らない。


「しかし、面白い取り合わせだな。

 冒険者上がりのハイネスガード。

 レンフォード家の家出娘。

 さらに行方不明になっていた魔神の器か」

「え?!」


 ジェラードの言葉にローザが声を上げる。

 俺もアッシュの方に首を向けるが、わからない、といった顔をしている。


「おい! 魔神とはどういう――――」


 モーモントが手の指を曲げる。

 来る痛みに備えようとしたが、


「イダだっだだだっだダダダだ!! ごべんなさい! ごべんなさい!!」


 痛みが走ったのはローザだった。

 俺は怒りのあまり、奥歯を砕く勢いで噛みしめ身体を動かそうとするが魔術の枷はビクともしない。


「ちくしょおおおおおおおっ!!」

「ハハハハハハハハハハハッ!!」


 俺が叫ぶとジェラードは愉快そうに笑った。

 そして手をパンパンと叩くとモーモントは魔力の注入をやめた。


「ククククッ! ベイリーズは実に忠義深い部下を持ったな。

 ちゃんと全部もらい受けてやるさ。

 レンフォード家の娘なんて政略に使うも苗床にするも使い勝手が良すぎる。

 奪われたイヌも戻ってきたからシャッティングヒルの方も問題ない。

 そして……ああ、お前は使い道がないなあ、コウとやら。

 ん〜とはいえお前にはしっかりと私を満足させてもらわんと。

 なにせ危うく殺されるところだったんだ」


 ジェラードはそう言って、俺の頬をベロリと舐めた。


「ッッッ!? き、貴様、見境なしかよっ!!」

「ククッ! 良い顔だ!

 平民風情がハイネスガードになって図に乗っていたろうが一皮剥けば卑しい獣だと言うことを思い出させてやるぞ!」


 戦うことを生業にするということはこういうことだと分かっている。

 人を斬った人間がロクな死に方をするわけがない。

 だが今はまだ受け入れるつもりはない。

 トランスの深度を極限を超えて深めて魔術の枷を破る。

 反動がどこまでくるかは分からないが二の矢を考える余裕はない。


 《死――――》


「ジェラード閣下! 前総督が申し上げたいことがあるとのこと!」


 伝令役の男の声に振り向くジェラード。

 少し思案して「通せ」と命令した。

 そして俺を横目で見つめて、


「どうせだから誰かに見てほしかったのだ。

 忌憚のない感想を申して良いぞ」


 ニヤけた顔から出た言葉の意味を俺は目の当たりにする。



「前総督、お連れしました」


 扉の向こうから出てきたベイリーズ総督の姿を見て、ローザは涙目になりながら目を逸らし、アッシュも怯え竦んだ。

 酷寒の城の中だというのに衣服は剥ぎ取られ、薄く皮を裂くように無数の切り傷が刻まれた胸板と背中が露わになっている。

 形が変わりどす黒くなるほど殴られている顔は

 そして、この地を守り続けてきた両の腕は根元から切り落とされ切り口は不格好に焼いて塞がれている。


「ジェラード……貴様アアアアアアッ!!」


 叫ぶ俺を楽しそうに見つめるジェラード。

 とんでもない嗜虐趣味だ。

 いったい、何があったらここまで人を傷つけられるのか……


「で、何用だ。前総督。

 貴様からの引き継ぎはすでに終わったと思っていたが。

 ああ、ハマってしまったのなら次は足の指を切り落としてやろうか」

「ひっ……! ち、ちがう! そうじゃない!

 その者の扱いを間違えると、と、とんでもないことになる!」


 ジェラードの目を避けるように顔を背ける弱々しい姿からはいつも飄々としていながらも漂っていた威厳が微塵も感じられない。


「その者……コイツか?

 貴様がこの私を暗殺するように命じた!」


 ジェラードは持っていたステッキで俺の胸をグリグリと抉る。

 グッと歯を噛み締めて耐えた。

 ベイリーズ総督は俯いてた顔を上げ、ジェラードをまっすぐ見つめる。


「コウは……皇室からの口添えもあって騎士に任命した」


 は……いったいなんの冗談、


「こ、皇室に対する建前でハイネスガードという役を与えた!

 だ、だけどそれは正規の騎士団から遠ざけるためだ!

 コイツの素行はすこぶる悪い!

 平民だから貴族にお門違いな嫉妬もしているしな!

 お前……じぇ、ジェラード総督閣下のもとに刃が向いたのは吾輩の監督不行届だが、企てたものではない!

 本当だ!!」


 ジェラードに媚びるように喚くベイリーズ総督…………

 何を言っているのかわからない。

 俺は総督にこんなふうに思われて……


 いや、思考停止するな!


 皇室との繋がり……俺の周りで皇族といえばユキがそれにあたる。

 だが、ユキが俺のためにベイリーズ総督に口添えする理由がない。

 だったらこれは……


 ジェラードは怪訝そうな顔をしながらも、


「なるほど……詳しく聞く価値はありそうだな。

 モーモント、魔術を解け」


 モーモントにそのように命じた。

 しかし、


「駄目……コイツの枷を外せば、閣下の身も危険になる」


 モーモントは当然の反論をした。

 だが、ジェラードは慌てながら、


「早くしろ! 外さなければ貴様を先に殺してやるぞ!」


 と激昂した。

 顔色は真っ赤にさせたり真っ青になったり落ち着かず、汗が溢れ出ている。

 その異常な様子にモーモントもただならぬ予感を覚えたのか、


「チッ」


 と舌打ちして俺たちにかかっていた魔術の枷を解いた。

 その瞬間、


「バカもおおおおん!! 何故魔術を解いたああああ!?」

「え?」


 ジェラードは激怒しモーモントはあっけに取られた。

 その突然の事態に滑り込むように、


「……やれ。わが騎士よ」


 蒼色に眼を光らせた総督が呟いた。

 瞬間、俺の中で全てが繋がった。


「《死……ねええええええええ!!》」


 トランス――――全力を振り絞れ!!

 微かに垂れた逆転の糸に俺は手をかけた。


 両足に力を込め、運足術【飛蝗】を発動。

 床を砕いて跳ね上がった俺の身体は広間の天井、モーモントの上空に達する。

 当然、奴は迎撃の魔術を準備する。

 掌に蓄積された魔力は火炎系……複数射出……追尾……


「【八連火矢アハト・ブラスト】!!」


 読みどおり!


「仲良く同じ魔術使いやがって!

 それはもう経験済みだあああっ!!」


 初見ならともかく、すでにヴェルディが放ってきた魔術。

 一度見た技は二度と喰らわないようにする。

 これは冒険者にとって鉄則の心構えだ。

 拳に闘気を纏い向かってくる火矢を蹴散らす。

 するとモーモントの顔に焦りが生まれたが、即座に吹き飛ばされるように後方に退き始めた。

 おそらくは風属性の魔術。

 突風を噴射させて高速移動しているようだ。


 地面に着陸した俺はモーモントを追う。

 だが、間合いが詰まらずその間にモーモントは新たな詠唱を始めつつある。

 せめて武器が――――


「コウ!! 受け取って!!」


 ローザが自身の髪の中から隠し持っていたナイフを取り出し俺に向かって投げつけてきた。

 身を翻し、パシっとナイフをキャッチする。

 ほぼ同時にモーモントの詠唱は終わったようで、


「【焼き尽くす汚泥メギドラ・マッド】」


 囁くようにして魔術が放たれた。

 紫色をした泥状の魔力が俺の身体を包み込むようにして襲いかかる。


「《斬る! 斬る! 斬るっ!!》」


 切り裂く! 魔術の汚泥さえもこのナイフで!!

 トランスを切り替え、斬撃特化!!


「うおらあああああああっ!!」


 モーモントの放った弾幕を切り裂き直進した俺は奴と肉薄する。

 魔術を切ったナイフは熱に耐えられず溶けてしまったが、この距離ならもはやナイフは必要ない。


「チィッ!! 小僧ガアアアアア!!」


 魔術を発動しようと掌を俺に突きつけるが、


「遅え……【閃光拳・嵐】!」


 闘気の纏った拳による連打が光の弾幕を作る。

 その弾幕に飲み込まれたモーモントは身体が跳ね上がるたびに細かく肉体を千切られる。

 二十撃目の拳が炸裂すると頭が半分吹き飛び、モーモントの体が床に転がった。

 

 その場にいるジェラードの部下はザワザワッ! と動揺の声を上げる。

 それを切り裂くように


「やったああああっ!!」


 ローザが大きな喜びの声を上げた。

 だけど喜ぶにはまだ早い。


「次はきさまだああ!! ジェラードぉぉぉおおお!!」

「ひいっ!!」


 方向を転換し、ジェラードに向かって突撃する。

 護衛の兵が阻もうとするが瞬時に弾き飛ばす。


「さあ!! 《死ねええっ》!」


 拳がジェラードの顔面にぶち当たる――――寸前だった。

 側面から伸びる腕に俺の手首がガッチリと握られ動かなくなったのは。


「おおっ! 間に合ったか!

 シュゲル!!」


 ジェラードはシュゲル、と呼んだその男は四十手前ぐらいの野性味のある偉丈夫だった。

 何度か遠目で見たことがある。

 というか北の大地でシュゲルの名前と顔を知らない者はまずいない。


 その実力は一人で一〇〇の騎士を打ち負かせるほどであり、北面最強の騎士として長年にわたりこの地を守り続けてきた北の大英雄だ。

 そんな彼がどうして!!


「閣下。あなたは重責ある身だ。

 お戯れで身を滅ぼすような愚かな真似はなさらぬよう、自重してください」


 落ち着いた声でジェラードを諫めつつ、俺の腕を捻り上げていく。


「ぐ……あああああああっ!!」


 苦悶の声を上げる俺をジェラードは見下ろし、


「ハハハ――――っ、もう良い! 離してやれ!」


 と慌てながら解放を命ずるが、シュゲルは笑って


「面白い眼をお持ちですね、ベイリーズ前総督」


 と、ベイリーズ総督の方を向いた。

 腫れ上がった顔で総督は微かに表情を歪めた。


「対象をご自身が思うように喋らせる能力……『操唇』の魔眼、とでもいったところでしょうか。

 隠し芸としては評価しますが、あまりお戯れになられると残っている脚も切り落としますよ」


 シュゲルの解説で先程までの妙な行動に合点が行った。

 ベイリーズ総督は皇族の流れを組む大貴族だ。

 魔眼を持っていてもおかしくはない。


「シュゲル……貴様ほどの騎士が何故、謀反に」

「私程の騎士だからですよ。

 当代最強の騎士だというのに北面騎士というだけで格下扱いされる。

 本来、私はナイツオブクラウン以上の称号を受けて然るべきなのですよ。

 この厳しい北の大地で三〇年近く戦い続けてきた。

 私がいなければシャッティングヒルが崩壊しただろう事は何度もあった。

 総督。あなたは私を自分の都合の良い道具としか扱わず、北面最強以上の名声を与えてくださらなかった。

 ジェラード総督は私を本国の騎士団長に推薦すると約束してくださった。

 肉体的に衰えが来る前に自分の力を試したいのです」


 何も悪びれる事なくさも自分が正しいようにほざくシュゲル。


「ふざけるな……お前のやっている事は、自分の名声のためにこの地を危機に陥れる事だぞ!」


 俺の声にシュゲルは微笑みながら返す。


「大丈夫。その危機から民は救われる。

 ベイリーズ前総督が起こした皇帝に対するクーデターをジェラード副総督が鎮圧。

 さらに総督の手の者が苦し紛れに破ったシャッティングヒルから押し寄せた魔獣たちを撃滅。

 その息をもつかせぬ電撃のような戦線の最前線に立つのは『北の暴風』改め『奇跡の英雄』シュゲル。

 私は北面最大の危機を救った英雄として鳴り物入りで本国に行く」


 都合の良い妄想ばっかり漏らしやがって!

 だが、コイツの実力はたしかだ。

 トランスに入った俺の腕力を顔色を一つ変えずに押さえつける。

 シュゲルが北面最強ということに異論はない。

 その生涯で何万という魔獣を狩ってきた当代屈指の英雄。

 俺やローザやアッシュが束になっても勝てる相手じゃない。

 それにコイツがいるという事は配下のナイツオブブリザードも、シュゲルに心酔する他の騎士団も敵方になる。


「……くくっ、笑わせる」


 満悦の表情のシュゲルに水をかけるようにベイリーズ総督が鼻で笑った。


「北の大地しか知らぬ貴様が本国の……しかもナイツオブクラウンについて語るとは。

 貴様の思っているほど本国は甘くはないぞ」

「本国から逃げるように北面総督の任を買って出たあなたにはそうなのでしょうね。

 だが私は違う。

 あなたと違って力があるからだ。

 たとえ帝国全てを敵に回しても私は何も困らない。

 私を倒せる人間など存在しないからだ」


 居丈高にそうのたまうシュゲルを総督はあざわらう。


「フフ……やはりお前自身認めているではないか。

 お前より強き者の存在を」

「なんだと?」

「人間は存在しない……つまり、人間以外には恐れるものがあるのだろう。

 たとえば賢狼ノウス、とかな」


 賢狼……いつぞや総督が溢した話の中に出てきた単語だ。

 それが何を意味するかは分からないが、シュゲルの顔色が変わった。


「シャティングヒルの向こう、北元郷に住まう魔獣を超えた存在。

 おそらく若き日の貴様は見てしまったのだろう。

 この北の大地の真の支配者の姿を」

「……ジェラード総督。謀反者の気が違ったようです。

 もう首をはねて構いませんね」


 シュゲルの提案にジェラードは大きく首を縦に振る。


「構わん!! これ以上引っ掻き回されてたまるか!!

 ベイリーズもこやつらもみんな殺してしまえ!!」


 ジェラードの叫びを合図にシュゲルは掴んでいた俺を総督に向かって投げつけた。

 俺がぶつかると総督は力なく崩れ落ちる。


「総督!?」

「吾輩にかまうな……どうせ、長くは保たん……」


 言葉の通り近くで見ればひどい深傷だ。

 首をはねるまでもなく今息絶えてもおかしくない。

 もっとも、人の心配をする余裕などかけらも無い。

 一合も剣をぶつからせなくても分かるほど明確な実力差。

 俺が倒した六天騎士団の連中が束になってかかってもシュゲルに遠く及ばない。

 帝国最強というのもまるっきり嘘ではないということか。

 だけど……


「最強だろうとなんだろうと知ったことか……

 私欲のために主君を裏切るような騎士を俺は認めない。

 絶対にお前を――――《殺す》!!」


 トランスの深度をさらに強化!

 反動ノックバックは完全に無視。

 この身を犠牲にしても目の前のシュゲルを殺す。

 そうすれば、ローザくらいは逃げ延びられるかもしれない。


「アアアアアアアアアッ!!」


 絶叫しながら俺はシュゲルに飛びかかった。

 武器も防具もない徒手空拳。

 だが、闘気を込めた拳で急所を撃ち抜けば人は十分に殺せる。

 当たれ! と願いながら乱打を放つ。

 後先考えず全力で放つ拳の速度は経験したことのない速度。

 肉体の強度を上回るそれは激痛と裂傷となって俺の身体を苛む。

 なのに…………なのにぃっ!!


「悪くない腕だ。

 わざわざ下賤の者から取り立てられただけはある」


 シュゲルは涼やかな顔で俺の攻撃をいなす。

 諦めるな……うっかり当たる可能性だってある…………だから――――


 ドゴォッ!


 下腹部に丸太を撃ち込まれたような衝撃が走った。

 半ば暴走状態だった身体が瞬時に停止してしまうほどのダメージと痛みが襲いかかる。

 それに便乗するようにムチャなトランスによる反動ノックバックも。


「うぐ……あぁあああぁあっつ!!」

「強力な自己暗示によって無理やり闘気を絞り出し続けているのか。

 一発芸としては面白いが、それまでだな」


 うずくまった俺を見下ろしてシュゲルは剣を抜いた。

 凍土のように冷たく白い刀身で俺の頬を撫でる。


「コウ! くっそおおお!! 離せええっ!!」

「UGAAAAAA!!」


 ローザとアッシュも他の騎士に取り押さえられてしまっている。


「寂しがらなくて良い。

 すぐにみんな着いて来てくれるさ」


 ゆったりと振り上げられた剣が今にも下されんとした、その時――――


「!?」

「なんだ!?」


 青い光の柱が広間の中央の床から立ち昇った。


 突然のことだったがシュゲルは即座に跳び、ジェラードを庇うように前に立つ。

 おかげで首の皮一枚繋がった。

 しかし、これはなんだ?

 おそらく魔術ではあるが見たこともない。

 それに術者は?

 モーモントが仕掛けた罠のような類ならば魔法陣なり触媒なり痕跡があるはずだがそれもない。

 まさに何もないところに現れた。


 光の柱はやがて霧散し、立ち上っていたその場所には三人の……人間…………が…………


「ハハハ、コレは凄い。

 見覚えのある内観だ。

 間違いなくここは北面総督府が置かれた城の広間。

 少しだけ見直したぜ、アグリッパ」

「わ、私の魔力ではこれほどの距離の転移は不可能です!

 お二人の力添えがあったからこそ――――」


 アグリッパとか呼ばれているデブはたしか六天騎士団の一人だ。

 あの日、ランジェロやヴェルディと俺を見下していた。

 それに話しかけているあの美丈夫……

 一度見れば忘れることなどできないほど印象深い容貌。

 洒脱ながらも優雅な身のこなしや仕草。

 ナイツオブクラウンの第四席にして、全ての神々に愛されたように完璧な造型とあらゆる才能に恵まれた皇子。

『完璧なヨシュア』ことヨシュア・グラン・リム・ヘレムガルド。


 そして…………ああ、嫌だ。

 本当に嫌だ。

 二年ぶりだからか全然違って見える。

 際立つように整ったその顔はもう子供らしさを残しておらず、貧相な鶏ガラのようだった情けない身体は引き締まった恵体に。

 なのに感覚よりももっと奥にある何かがアイツをアイツだって感じさせる。

 これが幼馴染の所以というやつか。


「フフン。到着した場所は狙いどおりだったが、光景は予想外もいいところだな。

 女子供を寄ってたかってなぶり殺しとはなかなかに軍紀が乱れている。

 しかもそれを司る総督閣下が……うん、派手にやられているな」


 ヨシュアは辺りを見回しながらそう言った。

 すると、アイツも不愉快さを隠さず眉を釣り上げながら言葉を発する。


「……いったい貴様らは何をやっている。

 同じ帝国の臣同士で殺し合いとは不忠の極みだ。」


 ……ぷっ!


「クククク……アハハハハハハ…………」


 痛みでどうにかなりそうだがアイツの賢ぶった口上を聞いて笑いが抑えきれん!

 そんな俺をアイツは見ないように目を瞑って続ける。


「この場は我々が預かる。

 わが名はユキ・グラン・フォウ・ヘレムガルド。

 ナイツオブクラウン第八席にして、六天賢者の嗣子である!」

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