第17話 生徒会は内ゲバ模様……時々、九条。

 珍しいことに、生徒会室にはメンバー全員が揃っていた。もっと簡単にいってしまうといつものメンバーに加えて副会長の竹史が、生徒会室にいるというだけの話になる。


「津島さん、勘弁してくださいよ。まだ128G回してなかったんだ。第一消灯もあったし、前兆中なのは間違いなかったのに」


 その竹史が、役職上唯一の上役である浩文に話しかける。相変わらずの装飾品過多で、身動きするたびにシャラシャラと音がする。


「何を言ってるのか全然わからん!」


 浩文は、そんな竹史の言葉を一言で切り捨てた。しかし竹史は止まらなかった。


「スロットですよ、スロット。パチスロ! せっかくこれから反撃が始まるところだったんですよ。天井まで回すのにいくらかかったか……」

「高校生が、堂々とパチスロに不満を並べ立てるな」


 またも一言で切り捨てる浩文。それを聞いて、竹史はこれ以上何を言っても無駄だと判断した。そして、およそ一月振りになる生徒会室の中を見渡す。


 当たり前の話だが、別に広くなっているはずもない。

 一教室分の広さに、あるのがパイプ椅子だけ、というところにこの学校のやる気が見える。その中で広げられた椅子は五脚。一人分多い。


 それが自分がパチンコ屋から呼び戻された理由なのだろう。


「ケケ君、この前やり合いそうになったんだって?」


 その声の主、ちえりへとやぶにらみの視線を送る竹史。それを待っていたかのように光一の背後に隠れるちえり。その光景を見て、竹史は怒りを持続させていくのが馬鹿らしくなってきた。


「……名前聞いて、ぶちのめしてやろうと思ったところで、九条の邪魔が入った……で、今日も俺を呼び出したのは、あいつの都合なんだろう? いったいあいつはどっちの味方だ?」

「君が、他人を敵味方で二分するのは勝手だけどね」


 そこまで黙っていた光一が、ちえりを背後に隠したまま突然口を開く。


「呼び出されてイライラしてるのは、こっちだって同じなんだ。文句を並べるなら、本人が来てからにすればいい……それとも何か? エクストラナンバーズに文句を言うだけの度胸はないのか?」

「んだとぅ?」


 一気に竹史の眉がつり上がる。


「俺があいつ等に手ぇ出さねぇのは、理事長に恩を感じているからだ。度胸のあるなしの問題じゃねぇんだよ!」

「そういう事情を覚えてるとは思わなかった――じゃあ、君はそういう事情をわかった上で、呼び出されたことに文句を言うんだね。エクストラナンバーズに」


 猫背のまま、見下したように竹史を見つめる光一に、元々さして耐久性のない竹史の堪忍袋の緒が切れた。


「……死なす!」

「ありゃ、またケケ君の暴走かい?」


 教室の扉が開いて話題のエクストラナンバー、九条信夫が実にタイミング良く登場した。

 信夫が視線を巡らせると、竹史の頭上どころか、光一とちえりの頭上にも家紋が輝いている。


「暴走はいいけど、睨み合ったままっていうのがいただけないなぁ。学校名が泣くよ」

「てめぇ、九条! 文句があるなら……」

「君が部屋に隠してある、自筆の恥ずかしい詩集――いや、エッセイのことだけどね」

「な、何?」


 一瞬で竹史の頭上の家紋が消え失せる。もちろん衝撃の事実を聞かされた光一とちえりの家紋も同時に消え失せた。


「お、俺はそんなもの持ってねぇぞ!」

「……って、君が言っても誰も信用しないよね。何せ僕が相手だ」


 信夫の能力の特性は、生徒会メンバー全員が把握している。竹史はなおも抵抗しようとするが、元々貧困な竹史のボキャブラリーは、すでに在庫切れを起こしていた。


「かくてケケ君は、これから先恥ずかしい噂がついて回ることになる……っていうのが、僕のもう一つの武器だよ。つまり“嘘”がね。僕が言うと誰も否定できないから怖いだろ」

「あ、嘘なんだ」


 ちえりがどこかホッとしたような声を上げる。


「当たり前だ。ケケが詩なんかかけるものか。こいつは馬鹿なんだぞ!」


 一人動じなかった浩文が、その理由をズバッと言い切った。


「あ、でもさ詩って馬鹿の方が、思い切って書けるんじゃない?」

「ちーちゃん、そこは深く追求しない方がいい」


 光一が、うなだれた様子でちえりを留める。そのまま、信夫へと目を向けて、


「九条もつまらないことしないでくれよ」

「いや、何だか見逃されてるみたいな言い方されたから、少し頭に来た」


 ニコニコと笑いながらそう告げる信夫の言葉に、さらに竹史は追い詰められる。


「じゃあ、何だか不満たらたらみたいだから、さっさと用件を告げるよ。例の転校生、七草太一の相手をして欲しいんだ」

「いや、それは……」


 信夫の要求に、光一は咄嗟に返事が出来ないでいた。


「それはお前に言われるまでもなく、やろうとは思っていたぞ。ただ理事長のお考えがなぁ」


 代わりに浩文がそう答えると、我が意を得たりとばかりに信夫がうなずく。


「そこだ。理事長は未だに出張から戻らない。どうも海外に出てるみたいで僕も追い切れない」

「海外? そんな予定だったのか?」


「いや。どうも“不測の事態”というのが起こったみたいなんだよね。で、その原因はどうも七草太一だ」

「あいつが?」


 立ち直ったらしい竹史が口を挟んでくる。


「そう。君とやり合った後だ。彼は“力”を見せたよ。完全に顕現するまでには至らなかったけれどね」

「何?」

「彼も伊達や酔狂でこの学校に来たわけではない――らしいね。とすると、理事長の意図はどこにあるんだろう、と改めて考えてみたんだ」


 信夫の言葉に、生徒会全員が興味を示したのか身を乗り出してくる。


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ちょっと補足です。

ケケが言っていたパチスロの機種名は「押忍!番長」で間違いありません。


色々規格があるんですが、この機種には「天国モード」というのがありまして128ゲーム(つまり128回、回す)の間に必ず当たるというモードがありました。

外からはわからないんですが、逆に言えば128Gで当たらなければ「天国モード」ではないので、当たるまで何ゲームかかるのかわからないんですね(これも色々ありますが)。

で、一定数回せば、これまた必ず当たるわけですが、これが「天井」です。

一体、いくら飲み込まれることになるのか? つぎ込んだ金が返ってくる可能世は乏しい(無いとは言いきれないのが恐ろしい)。

で、当たる前には「前兆」と言いまして、台がそのような動きを見せるんです。

液晶があるならそれ見ればこれもわかり易いんですが、この機種の場合は1番左のレールの灯りが消えた上で、何も揃わない。これも前兆となります。いわゆる「第一消灯」ですね。


つまりケケは、

「たっぷりと金を飲ませた台から、取り返すモードに入ってたのに、何故邪魔をしたんだ!?」

と、言ってるわけですね。

これをまたね。

「確率が収束する」

なんて言ったりもするんですが。


ちなみにこの機種、日本ではもう打つことが出来ません。検定切れという奴ですね。機種はある程度時間が経つと、撤去する運命なのです。

書いてる頃にもう駄目だった覚えもあるなぁ……つまり葉が丘の治外法権感をわかる人にはわかって欲しい、という考えがあったのかも。


というわけでして、ダメ人間を描くのに、あるいは有用かも知れないと思いまして、まったくの要らない注釈を入れてみました。

ご容赦いただければ幸いです。

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