ポテトマン、爆誕。

「泣いてない」

「泣いてるでしょ」

「泣いてないもん!」

「……ごめんって。泣きやんで?」

「うぅ……」


とりあえず、休憩所を訪れた俺たち。メイがタオルで涙を拭いている。その背中を、碧先輩が擦ってあげている状態だ。


「メイ……。なにか飲むか?」

「……コーンポタージュ」

「ないな……」

「……」


プールまできて、暖かいものを飲む人は、あまりいないと思う。ご年配の方だったらわかるけどさ……。


「先輩だから、なんでも奢ってあげる。何がほしい?」


責任を感じているらしい碧先輩が、優しく提案した。しかし、メイは首を横に振るだけ。


「……野並。この子普段から、こんな感じなの?」

「そうですね……」

「違うでしょ!嘘言わないで!」

「す、すまん」


すぐ拗ねるところとか、泣くところは、割とそのまんまかなぁと思ってしまうんだけど……。困ったな、せっかく息抜きしに来たのに、これじゃあ本末転倒というか。


なんとかして、メイの機嫌を取り戻したい。何かいい方法はないだろうか。


そう思って、休憩所の外を眺めていると、ふと、気になるものが目に入った。


水泳キャップを顔に被り、その上から、ゴーグルをつけて遊んでいる子供たち。


……これだ!


「ちょっと待っててくれ。良いモノを用意するから」

「良いモノ……?」


まず、売店に行き、水泳キャップとゴーグルを購入。次に続けて、フライドポテトも購入した。よし。これで準備完了だ。


子供たちと同じように、二つのアイテムを身に着け……。ゴーグルで締め付けられている部分に、ポテトを挟み、二人の元へ戻った。


「やぁ!元気かな?ポテトマンだよ!」


……二人の反応が無い。あれ。


「おやおや?元気が無さそうだね?そんな君には、ポテトをあげよう!」


メイにポテトを手渡した。まるで、カラスに突かれて破けたゴミ袋と、それにより散乱したゴミを見るかのような目を向けられている。


「それ、いいかも」


碧先輩が、ダッシュで売店に向かい……。


「ポテトクイーン!参上!」


ポテトクイーンになって、帰ってきた。


「どうしたんだい君!ポテトを食べて、元気を出しなさい!」

「……」

「ポテトを食べると、元気が出るよ!そうだよね?ポテトマン!」

「あ、あぁそうだ!どうだい?美味しいよ?」

「わかった!わかったからもう……。恥ずかしいからやめて」

「「……はい」」


俺と先輩は、普通の人間に戻った。


「……バカなの?」

「すまん。これしか思いつかなかった」

「野並がやれっていう目をしてたから」

「い、いや。それはちょっと」

「ポテトマンって何?」


手のひらを返した先輩が、ポテトを食べながら尋ねてくる。ポテトマンに理由なんてあるわけないじゃないか……。勘弁してほしい。


「野並。キャラクターを作る時は、ちゃんと練らないとダメ。あのキャラクターは雑。ポテトマンって言うなら、ゴーグルと顔の間にポテトを挟むわけがない。だって、人にポテトを分け与えるような人が、ポテトを無駄に消費するわけがないから。それに、私だったら、もう少し渋いキャラにする。敵を倒したあと、ポテトを煙草に見立てて咥えて、一息つくシーンを書きたいから。そもそも」

「わかりましたすいません。ポテトマンは忘れましょう」

「……また今度、じっくり説教してあげる」


まさか、ポテトマン一人のせいで、ここまで怒られてしまうとは思わなかった……。


「ポテトじゃなくて、唐揚げが食べたい」

「……おう。買ってくるよ」

「野並、私はタコ焼き」

「先輩だから何でも奢ってあげるとか、言ってませんでした?」

「ポテトマンより、ポテトクイーンの方が後輩なのは、自明でしょ?」


俺は諦めて、からあげとタコ焼きを買いに行った。ポテト二つは……。俺が消費するしかない。


「プールに来て、こうして涼しい場所から、泳いでいる人たちを見ながら、揚げ物を食べる……。そういう息抜きもあって良いと思う」


碧先輩が、急に締めの一言みたいなセリフを呟いた。


「そもそもメイ、どっちみち泳げないから、入るつもりなかったけど」

「なんだよそれ……」

「……だって、仕事頑張る前に、桜と遊びたかったのに、プール行くって言うから」


メイが頬を膨らませた。


「独占欲が強いよね。大根ちゃんって」

「あんたに言われたくない。メンヘラみたいな顔してるくせに」

「ど、どんな顔?」


困惑する碧先輩。メイ、そういうのわかるんだな……。


「けど、今日はあれだけ怖くて、辛い思いをしたから、練習がきつくても、乗り切れる気がする。ウォータースライダーよりはきつくないって、自分に言い聞かせるから」

「そうか……。頑張ってくれ」

「ポテト、頂戴」

「どうぞ」

「……両手、ふさがってる」

「置いたらどうだ?」

「……」


無言の圧力。仕方ないな……。


ポテトを一つ摘まんで、メイの口に……。


運ぼうとしたところで、碧先輩が横取りした。


「なにするの!」

「だって、私はポテトクイーンだから」

「それ、本当に意味わかんない。やめてよ」

「目の前で、あ~んなんて要求されたら……。嫉妬するに決まってるでしょ」

「……やっぱりメンヘラだ」

「メンヘラで結構。ほら野並。次のポテト」

「ダメ。次はメイだから」

「私」

「メイ」

「私」


二人が睨み合っている。


「……わかったから。同時でどうですか?」

「……妥協ね」

「仕方ない」


二人が納得してくれたので、ポテトを両手で掴み、同時にあ~んするという……。謎のシチュエーションが生まれてしまった。


ただの息抜きのはずだったのに、どっと疲れた気がする。でも、帰ったらちゃんと小説を書くぞ……!

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