桜の目標と、プールで息抜き。
夏休み二日目。しかし俺は、学校を訪れていた。
「……うん。やっぱり成長してる」
碧先輩から高評価を頂いて、ガッツポーズをした。
この夏休み。俺たちは週に三回ほど、学校に集合する約束をしている。お互いのモチベーションのためもあるが、実は一つ、俺にとって、大きな目標を掲げていた。
「中間までは残ると思う。このまま書くことができれば」
「本当ですか!?」
某小説投稿サイトにおいて、夏休みの特別企画として、学生限定のラブコメの大会が開かれることになったのだ。
現役プロ作家のアドバイスを受けながら参加する。というのは、ズルいかもしれないと思う反面、絶対に入賞しないといけないっていうプレッシャーもあって……。
「これはあくまで特訓の一つだから。私との約束はちゃんと守ってる?」
「はい。一日三話投稿。プロット作り禁止。ですよね?」
「そう。もしWEB小説の投稿に適性があるってわかったら、そっちに切り替えたほうがいいし、その場合、プロットを書く力よりも、予想外の話の展開をカバーしていく力が必用になっていくと思うから」
「はい。肝に銘じてます」
夏休みの最終日に締め切られ、なんとその日のうちに、入賞者が発表されるという、運営に夏休みなど無いことを思い知らされるようなスケジュールだ。
この一か月は……。勝負になる。
「妹さんが帰省したって?」
「あぁはい。そうなんですよ」
「彼女のチャンネルを見たけど、野並と同じように、頑張って投稿してる。刺激にして頑張って」
「……はい」
同じように、か。
……あっちの方が、圧倒的に結果を残してるんだから、同じようじゃいけないよな。超えないと。
「ところで野並。この後予定ある?」
「あ、いや。小説を書こうと思ってましたけど」
「じゃあ暇なんだ」
「えっと……」
「一時間だけ頂戴」
「はい……」
碧先輩には世話になってる。手伝えることは、手伝うべきだろう。
「買い物ですか?」
「違う。プール」
「……えっ」
「嫌なの?」
「嫌とかではなくて……。先輩とプールが、全然結び付かなかったので」
「こないだ水着姿は見せたはず」
思い出すと、顔が熱くなってしまう。スイッチの入った先輩に、かなり迫られたんだよな……。
「こうも熱いと、執筆も進まない。時には息抜きも必要だと思うけど」
「そうですね……。じゃあ、行きましょうか」
☆ ☆ ☆
一旦家に帰り、水着を持って現地集合!という話になったのだが。
「……なんで大根ちゃんが?」
「うるさい」
メイが着いてきた。
碧先輩は不満そうな顔をしている。そしてメイも負けじと、口をへの字に結んだ。
「椿ちゃんに言われたの。桜が遊びに感けないように、見張ってくれって」
「なんだよそれ……」
「妹として心配なんでしょ。これまで桜が結果出してないから」
「うっ」
痛いところ突いてくるなぁ……。
「言っておくけど。野並はちゃんと頑張ってるから。今日だって、早朝には起きて、小説を書いてる。今までとは違う」
「……ふぅん」
「大根ちゃんこそ、もっとレッスンとか頑張ったら」
「午後からみっちり、八時間。その前の息抜きだもん」
「……」
さすがの碧先輩も、驚いた様子だった。
椿が来てからの、メイのモチベーションの上がり方はすさまじい。仕事が無い日は、とにかくレッスンをスケジュールに組み込むという。
……この夏は、みんな頑張ってるんだよなぁ。周りにこれだけ、努力している人たちがいると、俺も引っ張られるようにして、やる気がみなぎってくる。
いがみ合う二人と別れ、脱衣所へ。喧嘩しないといいけど……。
着替え終わり、待っていると、先に碧先輩がやってきた。
……相変わらず、すごいスタイルだ。高校生とは思えない。
「どう?野並」
「すごく……。似合ってると思います」
「大きいなって思った?」
「な、なんてこと訊くんですか」
「このリボンのことだけど」
「あぁ……」
水着の胸元についている、大きなリボンを指差して、先輩が無邪気に笑った。
「何のことだと思ったの?」
「い、いや……」
「……桜の変態」
後ろからメイが現れた。メイの水着はかなりおしゃれで、このまま雑誌の表紙を飾れそうなくらいのレベルだった。
「メイもすごく似合ってるな」
「小さくてごめんね」
「……」
「……なんか言ってよ」
「……なんて言えばいいんだ」
「小さい方が俺は好きだぞ~。って、言えば?」
「性悪女……」
メイと碧先輩の間に、火花が飛び散った。
「そ、そうだ。二人とも、浮き輪はどうする?」
「もちろん借りる。二人用のヤツを」
「二人用?」
「そう。そのために来たんだから」
碧先輩がメラメラと燃えている。そういうことだったのか……。
「メイは、あのイルカに一緒に乗りたい」
メイが指差す先にある、イルカ型の浮き輪。
……アレは目立つなぁ。
「じゃあここは公平に、勝負しよう」
「いいよ。かかって来て」
「勝負って……」
なんか、俺の周りの女性陣って、すぐに勝負したがるよな……。たまには平和的な解を目指してもらいたいところ。
「何で勝負するの?」
「それは……。あのウォータースライダーで」
碧先輩が、巨大なウォータースライダーを指差した。
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