消えたアイドルを探せ!

「……あれ」


俺、どうして眠って……。


あぁそうだ。メイと喫茶店で会話してる最中だった。


時計を確認。三十分くらい眠っていたらしい……。メイは……。


「ようやく起きましたか」

「えっ」


対面の席に座っていたのは、メイではなく……。丸内さんだった。


昨日と同じ、スーツにメガネ姿。背筋をピンと伸ばしている。

真面目という概念を擬人化したようなスタイル。


キリっとした目で俺を見た後、小さくため息をついた。


「全く。ありえませんね。人前で眠るだなんて」

「すいません……。あの、なんで丸内さんが?メイは?」

「落ち着いてください。順番に説明しますから」


丸内さんにコーヒーをすすめられて、一口飲んだ。


「まず、私からも質問があります」

「なんですか?」

「今日私たちが出会うのは、一回目。そういうことでよろしいですね?」

「……そうだと思いますけど」

「ならよかったです。では早速本題に」

「ちょっと待ってください。なんですか今の質問」

「気にしないでください」


気にするでしょ……。でも、丸内さんの視線が鋭かったので、俺は引き下がることにした。


「私は鳴子さんから連絡を受け、ここに来ました。どうしても野並さんの面倒を見てほしいからと」

「面倒って……」

「本人は、子守と表現していましたが」

「めちゃくちゃバカにされてますね」


メイのニヤケ顔が目に浮かぶ。


「……そういうわけではないかと」


丸内さんが、少し視線を落とした。


「どういう意味ですか?」

「まるで、自分を落ち着かせるために、無理矢理言った冗談のように思えました。杞憂かもしれませんが」

「……そうなんですか」

「話を戻します。鳴子さんに呼び出された私は、仕事を切り上げここへやってきた。そしたら……。あなたが気持ちよさそうに眠っていた。そういうわけです」

「なるほど……」

「つまり、私は鳴子さんに呼び出されただけにすぎない。なぜこんな状況が出来上がっているのかに関しては、さっぱりなんですよ」


一体、何が起きているんだろう。急に仕事が入ったのなら、一声かければいい。だとすると……。


「……俺に言えないような事情ですかね」

「そうでしょうね。あるいは……。言いたくない事情」

「あの、訊きたいことがあるんですけど」

「なんですか」

「丸内さんは、どうして来てくれたんですか?」


メイに呼び出されたと言っていたが、本来仕事中であるならば、わざわざ従う必要もなかったはず。昨日出会ったばかりの若造に、丸内さんが協力する義理は無いはずだ。


「……そこに関しては、詳しい事情は言えませんね。ただ一つ言えることがあるとすれば、勘違いです」

「勘違い?」

「私はとんでもない勘違いをしました。それだけです。この話はここまでにしましょう」


強引に話を切りあげられてしまった。


「それよりも、今の状況の解決を目指すべきです。鳴子さんが私を呼び出した理由。そして、今一体、彼女がどこにいるのか」

「そうですね……」

「何度か連絡を試みましたが、最初のメール以降、返事はきていません」

「……心配だなぁ」

「何かの事件に巻き込まれた可能性もありますが、その場合、私に連絡をした理由がわかりません。もっと近しい人物を頼るべきだったかと」

「そこに関しては……。まりあさんは仕事中ですし、美々子さんは連絡を取ることができないですし、消去法というような気もしますけど」


まさか、神沢姉妹の連絡先を知っているとも思えないしなぁ。


共通の知人という意味では、ほとんど選択肢なんて無いと思う。


「昨日知り合ったばかりの……。特に関係も良好とはいえない私を、それでも誘うとは考えづらいですね」


丸内さんは、水を一口飲んだあと、俺を軽く睨みつけた。


「あと、仕事中は私も同じですよ」

「そうですよね。すいません」


丸内さんの圧を感じて、俺はすぐに謝った。むしろ、美々子さんの件を抱えているのだから、当然忙しいに決まっているじゃないか。失言だったな……。


「つまりです。鳴子さんは……。自分を探してほしいのではないかと、私は考えました」

「どうしてですか?」

「もし、そうでないならば、野並さんを置いて行くにしても、一人にすればいい。ほぼ他人である私を呼び出したということは、これが何かしらのSOSを意味している。わかりますか?」

「なんとなく、ですけど……」


俺が目を覚ました時、メイに何かあったと、よりそう思わせるために、この状況を作り上げた。そういうことだろう。


「ヒントは無いけど、探してほしい。そういう傲慢な発想ではないですかね」

「だとして、俺はどうすればいいんでしょう」

「……あっ」

「どうしました?」

「わかりました。完全に」


丸内さんが、メガネをクイっと上げた。まるで探偵みたいな仕草だ。


「私が必要ということは……。ズバリ、事務所関係でしょう」

「事務所関係?」

「すぐに出ましょう」

「え?ちょっと」

「お会計は済ませておきましたから」


……かっこいいな。


って、ドキッとしてる場合か。


俺は慌てて、丸内さんの後を追った。

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