目隠し+美少女は最強です。

目隠しをして、バスチェアに座らされた俺。


そして、湯船に背を向ける形になっている。


「ふぅ」

「わぁ!?」


いきなり首筋に息を吹きかけられ、体が反応してしまった。


目隠しをしていると、体の感覚が敏感になるというのを、聞いたことがある。


「ぎゃはは!桜可愛いなぁ」

「やめてくださいよ……」

「ごめんごめん!んじゃさっそく、ゲームの説明をします。今からあたしたち二人が、順番に桜の背中を突っつく。そんで桜は、どっちが先に突っついたか当てるっていうゲームだ!」


シンプルだなぁ……。でも、緊張する。


今の俺は、完全に無防備だ。この状態で背中を触られるなんて、相当ゾクゾクしてしまうだろう。


「よ~し。じゃあ、始めるぞ?」

「は、はい」

「野並。体の力抜いて」

「……はい」


しばらく、沈黙が訪れた。


そしてーー。


「……っ」


まず一人目の指が、背中に触れた。


そしてそのまま下の方まで、なぞるようにして指を進めていく。


「ちょっと?突っつくだけじゃないんですか?」

「たくさん触ってる方が、ヒントになるだろ?」

「……それは確かに、そうですけど」


背中に感覚を集中してみる。なんとなく柔らかいような……。でも、女の子の指なんて、みんな柔らかいだろうし、わからないな。


それよりなにより、さっきから心臓の鼓動がヤバイ。声が漏れそうなのを、必死で我慢している。


「よし。んじゃ、二人目」


覚悟を決めて、再び集中する。


しかし、次に触れられたのは、背中ではなく……。頬だった。


「え、ちょ、ちょっと。ルールが違いませんか?」

「野並。ルールに縛られた人生でいいの?」

「ゲームのルールくらいは守ってください!っていうか、この指は碧先輩ですか!」

「……バレたら仕方ない」

「え?」


なにやら不穏な空気を感じる……。


そして、人が近づいてくる気配。


「……あの、誰か俺の真横まで、顔を近づけてませんか?」


返事はないが、吐息がかかっている。


そして、それはやがて、両方の耳の近くまでやってきた。


「あの、二人とも?」

「……桜?」

「っあ!」


耳元で、囁くようにして、美々子さんが呟いた。


「どっちが最初に突っついたと思う?」

「そ、その耳元で囁くやつやめてください!」

「野並……」

「うぅっ……」


今度は逆側の耳から、碧先輩の囁きが……。


「野並、教えて。どっちが最初に突っついた?」

「これ、ゲーム変わってませんか?」

「ん~?何の話?」


耳がとろけてしまいそうだ……。湯船の外にいるのに、このままだとのぼせてしまう。


「最初に突っついたのは、美々子先輩ですよね?」

「ファイナルアンサー?」

「……ファイナルアンサー」

「……そうだよ」

「そうですよね」


別に、何のひっかけもなかったらしい。


「あの、当てたので、目隠しを外してもらってもいいですか?」

「え?どうして?」

「どうして?じゃないですよ。これじゃあ体が洗えないじゃないですか」

「別に、あたしらが洗うよ?ねぇ」

「はい」

「……え?」


冗談かと思っていたのに、湯船から二人が上がる音が聞こえた。


……いやいやいや!これはマズいだろ!


俺は自分で目隠しを外して、逃げ出そうとした。しかし、そんなことは予測済みだったらしく、腕を押さえつけられてしまう。


「二人とも。冷静になって、状況を考えてみましょう。女性二人が、目隠しをした男性の体を洗う。これはマズいですよね?」

「何がまずいのかさっぱりだな」

「野並は黙って体を洗われてればいい」


全然話を聞いてくれない!


どうしよう。このまま俺は、襲われてしまうのか?


「じゃあ、あたしが腕を抑えてる間に、神沢ちゃんが洗ってあげてよ」

「わかりました」

「先輩?こんなことしたら、絶対学校で気まずくなりますよ?」

「なんで?これもシチュエーションの一つだと思えばいい。小説のネタになる」

「まともな小説になりませんって!」

「そんなことない。少しお色気シーンを挟むことで、読者の気持ちを惹きつけることができるって、海外の大学の研究で明らかになったから」

「それ嘘ですよね!?」


ボディソープをプッシュする音が聞こえる。そして、手にそれを広げる音も……。


「野並。ここ洗ってあげるね」


一体、どこなんだ……。不安に思いつつも、俺は覚悟を決めた。


先輩が触れたのは……。


ーーお腹だった。


「ど、どうしてお腹からなんですか」

「野並、意外と腹筋が割れてる」

「そんな話してませんよ!」

「この溝に、汚れがたまりやすい」

「そこまで深……っ」


碧先輩の手つきは、妙に優しくて、柔らかくて……。


撫でるようなその洗い方のせいで、俺はどうにかなってしまいそうだった。


「ほら桜。耳がお留守だよ?」

「え?ふぁああ!」


そして、耳元では、美々子さんに息を吹きかけられている。


……このままでは、俺の理性が崩壊する!


そう思っていた、まさにその時。


ドアが開く音がした。


「……いつまで経っても晩御飯ができたって連絡がこないから、帰ってきてみたら」

「その声はメイか!?メイ!助けてくれ!」

「助ける?誰を?」

「い、いや。俺だよ!見ればわかるだろ!?」

「メイ、忙しいし。二人とも、変態桜を倒したら、さっさと晩御飯にしよう」

「了解!」

「わかった」

「あの、え?なにそれ。ちょっとメイさん?話を」


無常にも、ドアが閉まる音がした。


……こうして、メイに見捨てられた俺は、二人にめちゃくちゃにされてしまったのだった。

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