先輩とギャルのコンビが強すぎる件。

結局、怒ったメイは、『晩御飯まで帰らないから!』と言って、どこかへ出かけてしまった。


再び、碧先輩と二人きり。


「残すはあと一人」

「そうですね。さっきみたいなこともあるかもしれないんで、シチュエーションの勉強はやめておきましょう」

「仕方ない」


……あれ。案外あっさり引くなぁ。


それに、さっきから先輩、なんかソワソワしてる気がする。


「どうかしました?」

「なにが?」

「いや、急に静かになったので……」

「別に?私、クーデレだから」

「あんまり自分のことクーデレって言う人、いないと思うんですけど……」


まぁ、確かに碧先輩はクーデレなのかもしれない。


「いつ帰って来る?」

「う~ん。どうですかね」


今朝話した感じだと、そこまで遅くならないような気はした。


俺のために、ソロコンサートを開いてくれるとかなんとか。


……一緒に寝る云々は、碧先輩もいるし、諦めてくれると思う。


そんなこんなで、あまり喋らなくなってしまった先輩と待っていると、美々子さんが帰ってきた。


「ただいま~って、なんか美少女がいる!?」

「こ、こんばんは」


緊張した様子で、先輩が丁寧にお辞儀をした。


……もしかして。


「碧先輩、美々子さんのファンなんですか?」

「……バレちゃった」


恥ずかしそうに頭をかく先輩。


……こんな先輩は、初めて見たな。


「へぇ。あたしのファン?めっちゃ嬉しいじゃん……。で、桜とはどういう関係?」

「他人です」

「先輩!?」

「間違えました。部活の先輩後輩です」

「どうしてそんな嘘つくんですか……」

「だって……。もし、野並の彼女だと誤解されたら、相生さんに嫌われるから」

「あたしは別に、桜に彼女がいてもいいけどね。寝取るから」

「何言ってるんですか!全く……」


でもよかったな。今回は、前の二人みたいな空気にはならなさそうだ。


「でも君、運がいいな。実はあたし、今日ここで、ヴァイオリン弾こうと思ってたんだ」

「……ほ、本当ですか」

「マジマジ」

「……」


先輩が、目をキラキラさせながら、美々子さんを見つめている。


「でも、それには一つ条件があってさ」

「条件?」

「そうなんだよ。そこにいる、野並桜っていう男の子がさ。あたしと一緒に寝てくれたら、ヴァイオリン弾くつもりなんだ」

「え、美々子さんそれは」

「野並。あの人と寝て」

「先輩。気が早いです。ちょっと美々子さん!先輩は今日、この家に泊まるんですよ!」

「え、だから?」


キョトンとしながら、首を傾げる美々子さん。


どうやら、そんなことは関係ないだろ。と言いたいらしい。


「野並。私はまだ相生さんがアマチュアの時から、演奏を聴きに行ってた。CDもブルーレイも全部買ってるガチガチのファン。そのファンが、生演奏を聴けるチャンスを守ってほしい」

「……その言い方は、ズルくないですか?」

「ほら桜。これでわかっただろ?今日はあたしと寝るしかないんだよ!」

「……はぁ。そうみたいですね」


碧先輩が、ガッツポーズをした。こんなに感情豊かな先輩は初めてだな……。


「じゃあ、本日夜二十二時より、相生美々子特別コンサート開演っつーことで、楽しみにしてくれよな!」

「……はい!」

「さて、と。それまで時間があるし……。桜、一緒に風呂入らないか?」

「どうしてそうなるんですか」

「だって、コンサート終わった後は、その余韻のまま桜と寝たいし……。色々準備もあるから、今風呂に入らないとダメなんだよ」

「それは理解できます。でも、どうして俺が一緒に入る必要があるんですか」

「う~ん。あたしの欲望を満たすため?」

「理由になってません!」


だいたい、先輩のいる前で、そんな話をするのはやめて欲しいんだよな……。いつも一緒に入ってるって思われたら最悪だ。


「野並、相生さんとはそういう関係?」


それ見たことか。


「いやいや。あたしらがここに来たのは、つい昨日だし、まだ桜は、徳重ちゃんとしか入ってないよ?」

「ちょっと美々子さん!?」

「……野並、結構プレイボーイだね」

「違いますって!これには理由が……」


理由が……。


……いや。なんだかんだ俺も、流れに身を任せてしまっているな。


「そんなに二人が嫌なら、神沢ちゃんも一緒に入ればいいじゃん」

「美々子さん。それはさすがに暴走しすぎです」

「……野並。こんなこともあろうかと、私、水着を持ってきた」

「なんですかその用意の良さは!」

「おし!決まりだな!ほら桜、風呂行くぞ!」

「決定なんですか!?」

「そんなこと言って、断るつもりもないんだろ?」

「……いや、さすがに先輩はちょっと。同じ学校ですし」

「私は気にしない。むしろ、相生さんと二人で入られる方が、色々気になってしまう」

「でもなぁ……」

「おいおい桜。あんまりあたしの機嫌損ねさせない方がいいんじゃない?へそまげて、コンサート中止にしちゃうかもよ?」

「野並!一生のお願い!一緒にお風呂に入って!」

「こんなことで一生のお願いを使わないでくださいよ!」


と、いうわけで。


今日も俺は、押し切られてしまった。

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