現役美少女アイドルと恋人ごっこ……?

「設定は、同棲を始めた社会人カップル」

「ぷふっ」


メイが説明した途端、碧先輩が吹き出した。


そんな碧先輩を、メイが睨みつける。


「何がおかしい?」

「あなたはどう見ても妹。社会人は似合わない」

「うるさい。シチュエーションだから、関係ないでしょ」

「私を納得させるなら、せめてキャラクターの雰囲気くらいは合わせた方が良いと思う」

「……言っておくけど。メイ、仕事で演技したことあるから」

「……へぇ」


碧先輩の目の色が変わった。


「楽しみ」

「……見てなさい。行くよ?桜」

「お、おう……」

「桜は、玄関から入ってきて。私が出迎える」

「わかった」


結構形から入るんだな……。


と、いうわけで、俺は玄関へと向かった。


「メイ。もういいか?」

「いつでも来て」


少し緊張しながら、リビングへ入る。


すると、メイが駆け寄ってきた。


「オカエリナサイ」

「……っ?」

「ドウシタノ。オカエリナサイ」

「……」

「……ちょっと桜。何か言って」

「……ごめん。メイ」

「え?なに」

「あははは!!!」


後ろで、碧先輩が大笑いしている。


さすがにそれは失礼だろと思ったが、実を言うと俺も、笑いをこらえるのに必死だった。


「な、なんでそんなに笑うの」

「だって、だって……。ねぇ野並」

「桜。なんで?」

「……メイ。演技をしたって言ってたけど、その時の評価はどうだった?」

「伸びしろしかないって言われた」

「あはは!」

「何がおかしいの!」

「お、落ち着けよメイ」

「桜!何がおかしいか言って!」

「……あのな。メイ」

「うん」


……きっと、これを言ったら、メイは酷く傷つく。


でもこれは、あまりに酷すぎる。ここで教えてやらないと、多分将来恥をかくのはメイだ。


「……メイは、めちゃくちゃ棒読みなんだ」

「棒、読み?」

「そうだ」

「メイが?」

「うん」

「棒読み?」

「……うん」

「ははっ。まさか」


嘘だろ……?自覚ないのか?


「あ~。おかしい。戦うまでもなかった」

「さっきから失礼じゃない?メイ、まだ演技の途中なのに。桜、最初からやろう?」

「いや、その……」

「どうして!意味わかんない!」

「メイ。悪いけど、今のままだと、どう頑張っても先輩には」

「うるさい!」

「お、おい」


メイが、急に正面から抱き着いてきた。


こいつ……。物理攻撃に切り替えたな?


「ほら。ドキドキするでしょ?こんな美少女に抱きしめられて」

「い、いや。ドキドキはするよ。でもこれ、シチュエーション対決で」

「はいはいストップ」

「あたっ」


碧先輩がやってきて、メイの頭に、優しいチョップをくらわせた。


「……なんなの。この女。むかつく!」

「あぁでも、今日碧先輩には泊まってもらう予定だから、できれば仲良くしてほしいなぁなんて」

「無理!こいつが家にいるなら、メイはホテルに泊まる!」

「そんなこと言うなよ。ホテルは一人だぞ?」

「桜が来てくれればいい!」

「無茶言うなよ……」

「……」

「……先輩?どうしたんですか?急に黙って」

「……負け」

「え?」

「私の負け」


碧先輩が、両手を挙げて、降参のポーズを取った。


「負け?どうして急に……」

「だって、この子可愛い」

「か、かわ!?」


褒められたメイが、顔を真っ赤にしている。


しかし、すぐに首を横に振って、熱を冷ました。


「だ、騙されないから。メイをからかってるんでしょ?」

「ううん。本当に可愛い」

「何回も可愛いって言うな!」

「そういうとこ」

「むぅ~!!!」


頬を膨らませて、かなり怒っている様子のメイ。


けど……。確かに可愛いな。うん。妹って感じがする。年上なんですけども……。


「……こんな可愛い子がいたら、私の出る幕なんて無い」

「碧先輩?」

「野並は毎日この子と寝てるの?」

「ち、違いますよ」

「そうだよ。桜はメイのだから」

「メイ!嘘を言うのはやめような!」

「だから、あんたはさっさと帰ってよ!べー!」

「……本当に可愛い。家に持ち帰りたい」

「先輩。その発言はダメだと思います」


そんなこんなで、神沢碧と鳴子メイの対決は、鳴子メイに軍配が上がった(?)らしい。


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