あたしも一緒に寝たい!

「おはよ~!桜!」

「おはようございます」


リビングに向かうと、美々子さんがトーストを齧っているところだった。


ゆったりとした部屋着が、妙な色っぽさを感じさせる。


「他のみんなは?」

「二人とも、仕事だ~って言って、出てっちゃった」

「なるほど」

「徳重ちゃんが朝ごはん作ってくれてるし、一緒に食べよう!」

「そうですね」


あとでお礼を言っておかないとな……。


「いただきます」


席に座り、トーストに手を伸ばそうとしたところ、美々子さんが、その手を遮ってきた。


「どうしました?」

「なんで、隣座んないの?」

「え?だって、トーストがこの席の前に……」

「せっかくだし、隣で食べてくんない?」

「はい……」


美々子さんの要求に首を傾げつつも、俺は皿を持って、隣へ向かった。


「ほら、食べて食べて」

「……」


……これは、何か企んでるな?


まぁいいや。気にしても仕方ないので、普通に食べ進めることにする、


「美々子さんは、今日は大学休みなんですか?」

「ん~まぁ休みって感じ?午後から弾きに行くけど」

「ヴァイオリニストと大学の両立って、大変そうですよね」

「ありゃりゃ~?もしかして、心配してくれてんの?」

「あ、ちょっと……」


美々子さんが、急に肩を抱き寄せてきた。そして、おでこに人差し指をコツンと当ててくる。


「大丈夫だって。あたし、弾いてるとむしろ体力回復っていうか?」

「そうなんですね……」

「桜は、あたしの演奏聴いたことある?」

「すいません。たまにテレビでちょっと見るくらいで……。しっかりと聴いたことは無いですね」

「じゃあさ、今日の夜、ヴァイオリン持って帰って来るよ!それで、一人だけのコンサートを披露する!」

「そんな。悪いですよ。プロなのに……」

「いいって!その代わりにさ……」


……交換条件があるのか。でも、プロの演奏を目の前で聴けるのだから、当然かもしれない。


「なんですか?」

「今日、あたしと一緒に寝ない?」

「……え!?」

「あ、違うよ?エッチなのとかじゃなくて!」

「それはわかってますよ!でも、え、どうして?」

「……桜さ、昨日、メイと寝てたじゃんね?」

「……知ってたんですか」

「今朝、メイが桜の部屋から出てきてさ、目が遭ったわけ!そしたらメイ、ドヤ顔で自分の部屋戻ってくの!むかつくじゃんね!あたしだって、桜と一緒に寝たい!」


メイ……。とんでもない爆弾を落としていったな……。


「ね?お願い!別に、減るもんじゃないしいいっしょ?」

「いやでも……。メイはなんていうか、子供っぽいところがあるんで、まだ大丈夫だったんですけど……。美々子さんは、大人っぽいし……」

「……別に、桜がそういうことしたくなったら、してもいいからね?」

「なっ……!しませんよそんなこと!」

「えぇ~?どうかなぁ?男子はけだものだからなぁ。まっ。とりあえず、今日の夜ってことで、なんか燃えてきた!ちょっと今から練習しに行ってくる!」

「あ。ちょっと!まだ話は!」


引き留めたけど、それを振り切って、美々子さんは行ってしまった……。


……まさか美々子さん、本気じゃないよな?


多分、ちょっとした冗談なんだと思う。美々子さんは大人っぽいし、俺をからかってるだけだ。


とりあえず、俺も学校に行かないと。


俺は再び、朝ごはんを食べ始めた。


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