現役女子高生美少女小説家の浮気追及
「珍しいね。野並が学校に来るなんて」
「まずはおはようでしょうが先輩」
「こんばんは」
「ひねくれものだなぁ……」
学校に到着した俺は、教室に行くことなんてせず、文芸部の部室を訪れた。
これがいわゆる、文芸部室登校というやつだ。保健室登校は時代遅れ。
文芸部の部長であり、俺の小説家としての大先輩、
「……野並」
「はい?」
「ちょっと、こっちきて」
「……えっと、はい」
椅子を持って、神沢先輩の隣に行く。
神沢先輩が、急に俺の右腕を掴んできた。
「な、なんですか先輩」
「黙って」
「……」
掴んだ右手を……。自分の顔の方へ寄せていく、
神沢先輩のサラサラの黒髪が、腕にかかって、少しこしょばい。
「先輩?」
俺の右腕を見つめたまま。先輩は目をキョロキョロさせている。
作家である先輩は、時々変わった行動をするが、きっとそれも作品に何か活かすためなのだと思い、俺はだいたいのことを受け入れていた、
でも、今回はやけに長いな……。
「……二人」
「はい?」
「女が、二人」
「……な、何の話ですか」
「寝癖が無い」
「いやそれはたまたま目について」
「野並が私と出会ってから、寝癖を直していた日は二日しかない。一日は、新任教師が美人という噂が流れた時。もう一日は、去年の文化祭で」
「先輩その話はやめよう。死んじゃうから」
「大丈夫。生き返らせてあげるから」
「無理です無理無理。魂が木っ端みじんになっちゃいます」
最初の方はまだいい。男子なら誰もが一度は憧れる、美人新任教師との出会い。
まぁ実際は噂に過ぎなくて、やってきたのは五十代のおっさんだったんですけども。
問題は二つ目だ。先輩にそそのかされ、エントリーした、イケメングランプリ。
当然、票なんて集まらなかった。先輩に騙されたのだ。
……まぁ、これも俺が、学校をサボるようになってしまった、一つの要因なんだけども。
「私はイケメンだと思った」
「もういいですってその話」
「思ったの」
「あの、そろそろ腕を離してもらっていいですか?」
「切り離す?」
「怖い怖い」
でも、なんだろう。
さっき、あんなとんでもない美人さんと過ごした後だからだろうか。
神沢先輩と話すのが、いつもより癒しになっているような気もする。
「先輩。小説持ってきたんですよ。見てもらえます?」
「うん」
「よっしゃ」
俺はテーブルの上に、ノートPCを置いた。
「……見終わったら、二人の件について、詳しく話してもらう」
「……はい」
……前言撤回。癒しなんてなかったらしい。
☆ ☆ ☆
「ゼロ点」
「ぐふぅ!?」
強烈なボディブローをくらってしまい、気を失いそうになった。
「ど、どこがダメでしたでしょうか」
「野並、恋愛したことないでしょ」
「……ないですが」
「それがまるわかり。女の子はこんなこと言わない」
「で、でも!そういう妄想を書くのが、こういった恋愛小説の醍醐味なのでは!?」
「キモい」
「ぐはっ!」
完全にKOされてしまった……。
今回は、神沢先輩からの課題で、恋愛小説を書き上げてきた俺。でも、今まで書いたことが無い上に、俺自身恋愛経験が無いせいで、内容は自分でもまぁ酷いとわかるレベルで……。
わかってたけど、はっきり言われると切ないな。
「野並は何でもそう。経験が足りない」
「そうは言っても……」
「恋愛をするべき」
「そんな簡単にできるなら、苦労しませんよ」
「私と、する?」
「え?」
神沢先輩が、真面目な顔をして、こちらに視線を送ってきていた。
いつもポーカーフェイスだから、感情が読めない。
「またまた。どうせ冗談でしょ?」
「本気」
「勘弁してくださいよ。そんなの申し訳なさすぎるじゃないですか」
神沢先輩は結構モテる。漫画とかでよく見る、黒髪ロングヘアーの物静かな美人だからだろう。
……正直、俺なんかと二人きりで会話してくれることすら、奇跡なんだよな。
俺が小説を書いていなかったら、多分一生関わることなんて無かったと思う。
「先輩は、もっとこう……。博識のイケメンみたいな。ほら。三年C組の荒子川先輩とか。誰にでも優しいテニス部の部長の中島先輩とかがお似合いですよ」
「どうして野並が私の彼氏を決めるの?」
「ごめんなさい……」
怒られてしまった……。
神沢先輩が、小さくため息をつく。
「さて、じゃあ小説の評価は終わり」
「え、もうですか?」
「二人の件」
「……」
「私という女がいながら、浮気した理由は?」
「別に浮気ではないでしょう……」
「応えて」
「えっとですね……」
かくかくしかじか。俺は神沢先輩に、事の経緯を説明した。
「……ライトノベルみたいな話」
「やめてくださいよ」
「ベタな展開なら、三人目は私」
「そうでしょうけど……。でも、違いますよね?」
「私じゃキャラが薄い」
「いや決してそんなことは無いと思いますが……」
黒髪ロングヘアーの、現役女子高生プロ作家。
ライトノベルの登場人物としては、申し分ないスペックだと思うけどな。
「それで、野並はどうするの」
「どうするとは」
「その二人。あるいはまだ表れていない三人目と付き合うの?」
「いや、急にそんなこと訊かれても……」
「可能性はあるんだ」
「……あると思いたいですけどね。美人さんですから」
「不潔」
「でも、それこそ貴重な経験ですから、小説に何か活かせるかも?」
「……そういうのじゃない」
「え?」
神沢先輩は、立ち上がると、早足で出口に向かってしまった。
「……野並のバカ」
最後に呟いたセリフは、小さすぎて、うまく聞き取れなかった。
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