駆け出し美少女アイドルのわがまま

神沢先輩が帰ってしまったので、学校にいる理由も無くなった俺は、制服から私服に着替えて、街をぶらつくことにした。


とはいえ、高校生だってことは、簡単に見破られてしまうだろう。補導されたら面倒なので、サングラスとキャップを被っていく。なんか芸能人が変装する時みたいでいいよな……。うん。


とりあえず、人の多い商店街へ。ここなら、警察の目を誤魔化すことができる。


適当にぶらついていたところ、妙に人がたくさん集まっている場所があった。


商店街の一角に、特設ステージがセットされている。


それを囲むようにして……。おじさんたちが集まっていた。


なんだこの年齢層と男女比の偏りは。


「いやぁ。楽しみですなぁ。商店街ライブは、やはりいいものですぞ」

「そうですのぉそうですのぉ。今日はきっと、元気百倍のメイちゃんが見られますゆえ」


おじさんたちの会話を聞いてると、どうやらアイドルのライブか何かが行われるらしい。暇だし、ちょっと見ていくか……。


しばらく待っていると、急に大音量でBGMが流れ始めた。それに反応して、おじさんたちがでかい声を出す。


「うぉおおおおお!!メ~~~イちゃ~~~~ん!!!!」


……となりのトトロの応援上映があったら、こうなるのかな。みたいな気持ちになった。


アイドルの名前は、鳴子なるこメイというらしい。みるみる人が集まってくる。結構人気なんだな……。


「みんな~!!!元気~~~?」


ついに、メイちゃんが現れた。


紫色の髪の毛をサイドでそれぞれ結んでいる、いわゆるツインテール。


身長は結構低そうだ。おじさんたちの壁でほとんど見えない。


「メイちゃん!最高!愛してる!世界で一番好き!」

「メイちゃんが大統領になればいい!日本もアメリカもメイちゃんがしきっちゃいなよ!」

「あぁ~!!!今日もメイちゃんの声でMP回復しちゃうな~!!!!イオナズンでちゃうかもな~!!!!」

「拙者、駿河より参った忍者でござる!今川義元どのにお仕えする最中、この尾張の土地に参りし時、鳴子メイという素晴らしいアイドルの話を聞き、参った次第!」


……ファンの癖が強すぎないか?


「みんなありがとう!それじゃあ一曲目!絶交ポイズンハンバーグ!」


どんな曲名だよ。


ついにおじさんの壁により、メイちゃんが完全に見えなくなったので、俺はその場を離れることにした。


すごいなぁ。アイドル。


☆ ☆ ☆ ☆


しばらく時間を潰し、夕方になったので、帰ることにした。


すると、玄関の前に、一人の女の子が立っているのが見える。


……え。


その子は、近寄って来た俺に気が付いた。


「……あんた、野並桜?」

「そうですけども……」

「そう。早く開けてよ」

「……マジ?」

「マジ?はこっちのセリフ。疲れてるのに一時間も待たされて」


ふてくされたように、俺を睨みつける彼女は……。


どう見ても、鳴子メイちゃんだった。


と、いうことは、この子が三人目の……。


「こんなベタなことあるんだな」

「はぁ?」

「さっき、君のライブを商店街で見かけたんだよ」

「……」

「……」

「……早く開けてよ」

「いや、ノーリアクション?」

「い~から!メイもうくたくたなんですけど!」

「わかったわかった。そんなに怒らないで」

「ふんっ!」


これまた典型的なロリツンデレというか……。まぁいいや。


ドアを開け、先に鳴子さんに入ってもらう。


「私の部屋は?」

「あ~えっと。先に二人が来てるから、残りの空いてる部屋ならどこでもいいよ」

「そう」


なんかツンツンしてるなぁ。


で、テーブルの上には、二人の置き手紙。


どうやら、二人とも、仕事に行ったらしい。


……え。じゃあ俺、あの子と二人っきりなの?


気まずいな。


まぁでも、どうせ部屋から出てこないか。


「ちょっと」

「あ、うん」


鳴子さんに呼び出された。


「どうしたの?」

「照明の電池が切れてる」

「あ、ホントだ……」


しばらく使ってなかった部屋だ。そういう可能性もあるよな……。


「俺、買ってくるよ」

「いい。別に。どうせ寝るだけだし」

「いやいや。さすがに不便だろ?」

「いいって」

「……じゃあどうして呼んだんだ?」

「……ただの報告だし」


……俺、もしかして、嫌われてる?


前の二人とのギャップがすごくて、めちゃくちゃ凹んでるんだけど。


「メイ、お腹空いたんだけど」

「あぁうん。どっか食べに行く?」

「どうしてあんたと食べる前提なの」

「あ、そっか……。じゃあ、出前でも取るか?」

「勝手に取るからいい」

「……」


まぁ……。そのうち仲良くなれるだろう!


「じゃあ、何かあったら呼んでくれ」

「……あんた、何歳なの」

「え?」

「何歳なのって」

「……十七歳だけど」

「メイ、十八歳なんだけど」

「……マジですか」


てっきり、年下だと思っていた。


「すいません。タメ口使っちゃって」

「そうじゃない」

「……えっと」

「もういい」

「あ、ちょっと」


鳴子さんは、部屋に入ってしまった……。


しまったなぁ。怒らせてしまった。


身長とか、性格とか、喋り方とか……。総合的に判断すると、年上って気が付くのは、かなり難しかったように思えるけど。


仕方ない。俺も部屋に戻ろう。


そう思って、その場を去ろうとした時、背中の方でドアが開く音がした。


「あれ、鳴子さん?」

「……暗い」

「そう……。でしょうね」

「でも、メイは大人だから、暗いの怖くないし」

「そ、そうですか」

「でもでも。暗いと何も見えない」

「……やっぱり、照明必要ですよね?」

「怖くないから」

「……」


要約すると、買ってこいってことでいいのかな。


「わかった買いに行ってくるよ」

「……一人で?」

「だって……」


さっき、食事に誘った時に、断られたし……。


「こんな知らない家で、メイは一人で過ごすの?」

「……えっと?」

「怖くないよ?」

「うんうん」


……なるほど?


少しわかってきたぞ。


「どんな照明が良いのか、本人の意見が欲しいから、是非付いてきて欲しいんだけど、どうかな?」

「……仕方ないなぁ」


よし。覚えた。


鳴子さんとは、こうやって接すればいいんだな!


何この、ギャルゲーのちょいムズヒロインみたいな性格。


そういうわけで、俺たちは家電屋に向かうことになった。




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