91時限目【光の階段】

 


「ちょっとフォルネウス〜、とっととジュースをいれてくるの〜! でないと噛み付くの〜!」


「なんで俺がそんなことっ」


 ガブ!


「ぬぎゃぁーーーーーー」ぴゅーっ


 頭から血を噴き出しながら天使達にジュースをいれる悪魔フォルネウス。何ら変わらない日常だが、そこにマールの姿はない。


 そして、誰も気付かない。

 最初から知らない、無かったことになったのだ。


 2年目の体育祭は、


 天使達、奮闘するが惜しくも勝ちを譲ることになった。

 皆んな悔しくて泣いた。

 その涙はとても綺麗で、輝いていた。



 文化祭、


 今年も去年好評だったカフェで勝負。

 他校の男子達を萌え殺しにした天使達であった。

 キラキラした笑顔が咲いた。



 合唱コンクールでは安定の最下位。


 そんな青春の1ページに、


 マールの太陽のような笑顔だけが存在しない。



 そしていつしかフォルネウスのクラスは3年目に。

 3年生になった○○エル達は少しだけ、ほんの少しだけ大人になった。

 徐々に近付いてくる卒業を意識し始める3学期、今日も変わらない日常が過ぎようとしていた。


 フォルネウスはいつものように保健室にいた。


「それにしてもよく飽きずに噛まれ続けたもんだの? ほれ、包帯を巻いてやるからそこに座れ」


 身長130センチの白衣を着た幼女は悪魔フォルネウスを見上げる。彼女の背中には翼がない。


 治療は至って普通。何の力もないはずの彼女の包帯は不思議と痛みを和らげる。


「しかしもう卒業だの。あのおてんばクラスともお別れが近付いてきたわけだが」


「そうですね。あ、そうだ……メタトロン先生……」


「どうしたフォルネウス? サハクィエルと喧嘩でもしたのか?」


「いや、そうじゃなくて。何か、足りないんですよ」


「……ほう、足りない……? 私の愛がか?」


「いや違います。……でも何が足りないのか、俺は生徒達の気配は手に取るように分かるんです。どれだけ離れていても、探し出せるんですよ。

 生まれ持った能力、なんですが……」


「何が言いたいのだ?」


「ひとり、足りないんです。生徒が」


「……な……?」


「大事な1人が遠くにいるのがわかる。わかるはずなんですけど……それが誰なのか……」


「少し疲れとるのではないか、フォルネウス? しかし気になるの。私も少し調べてやろう。とりあえず今日は早く寝ろ」


「そうですね。治療、ありがとうございます」


 フォルネウスは保健室を後にした。



 ☆☆☆☆☆



 小高い丘の上にひっそりと佇む寂れた公園、

 パワースポットの空間に一筋の亀裂が入る。

 そしてそこから2人の人影が。


「ここが天界か。たしかに眩しくて堪らんね」


「はい……でもここにいるんですよね……彼が」


「あぁ、間違いない。天翔の青年にかけた魔眼で確かに確認した。何があったかは知らんが、アビスは天界にいる。私の息子がね。

 まずは様子を見るとしよう。ついて来なさい、カルナ」


「はい、ラウル様」


 ——

 

「それにしても、眩しいことを除けば天界も魔界とさほど変わりないようですね、ラウル様」


「そのようだな。だが、天界ではこの私ですら知り得ない狂気の儀式が行われているようじゃないか。恐らく上の者達の数人しか知り得ないであろう儀式が」


「ラウル様ですら……序列7位までで編成されている七戒のメンバーは何故そんな事実を隠して?」


「わからんよ、しかし面白くはないね。この先の魔界を統べる一族であるこの私を差し置いた事柄自体、非常につまらん。一刻も早くアビスを連れ帰る。そして魔界の王とせん」


「アビス様が魔界の王……! その為なら私、命もかけます!」


「はっはっは、この前のような無茶はよしてくれたまえよ? 君を殺したとなるとアビスが黙ってないだろうし……それに、私は女を殴りはしない、あの時は少し脅かせば投降するだろうと甘くみていたのだ。すまないな」


「死ぬかと思いました……ほんと」


「女の子は愛でるものだからね」


「ほんと好きですね……鼻の下、伸びてます」



 ……



 その頃、フォルネウスは部活に強制参加させられていた。


「おい、お前らいつまでここにいるつもりだ?」


「それはガブ達の気がすむまでなの〜! フォルネウスは黙ってジュースを入れてればいいの〜!」


 いつも通りの生活だ。

 そんな時フォルネウスは窓から空を見上げるロリエルが気になった。騒ぐガブリエル2世を放置し、ロリエルの隣に座ったフォルネウス。



「……む……」


「何か気になるのか?」


「……先生、私って、天使部の部長ですか?」


「……あぁ、確かに、そのはずだ」


「……そうかな……」


 俯くロリエルにフォルネウスが言った。


「違う……と思う……」


「そうですよね……?」


「空に……俺達天使部の部長がいる。気配だけ、ずっと感じる……それが誰なのか……」



 すると騒いでいたガブリエルがふと口を開く。



「マー……ル……?」



 そう、マールだ。



「ガブリエル! そうだ、マール! マールがいない!」


「今、何故か思い出せたの……」ふるふる


「な、何故わすれて……」プルプル


「もう3年生になったのに〜」


 その時、玄関が開いた。


 そこにはフォルネウスのクラスの皆がいた。

 ○○エル達は口を揃えて言った。


 マールがいない、と。


「お、お前ら……そうだよな……俺の勘では、


 マールは空にいる!」



「行こう先生! 思い出したよ……マールちゃんは私の身代わりになって……」


「俺もいろいろ思い出してきた。ロリエル、お前は白天使アルビナで……マールは器の力を持つ天使……その力でお前の力を取り込んで身代わりになったってことか! 俺は何も出来ずに……

 くそっ……俺は行く! 何処にいるかはわからねーが……生徒を見殺しにできるか!」


 フォルネウスは立ち上がる。するとクラスの全員がルミナスを解放し大きな力を生み出した。


 ガブリエル2世はフォルネウスに言った。


「皆んなで行くの〜! 異論は認めないの〜!」


「お前ら、わかった! 俺達の大事な仲間を……委員長を俺達全員で助けに行こう!」


 新任教師(悪魔)と教え子の○○エル達は全員のルミナスを解放して空へかかる光の階段を作り出した。


「お前らの気持ちがマールの居場所を教えてくれる……無駄に熱い展開も悪くない!

 皆んな! 俺についてこい!」


 ——


 光の階段を登るフォルネウス達を木の陰から見つめる黒き瞳の持ち主は、すっとその場から消えた。



 ◆◆◆◆◆

 遂にマールを認識したフォルネウスとクラスの皆!

 光の階段を登って、彼女の眠る神聖樹の元へ急げ!

 ◆◆◆◆◆





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