90時限目【器の覚醒、そして】

 

 ◆◆◆◆◆

 儀式の開始まで数刻!

 単身、神聖樹の元へ飛ぶマール!

 彼女はロリエルを救うことが出来るのか!

 このまま神の視点で後を追う!

 ◆◆◆◆◆



 神聖樹、その前に大天使長ミカエルの姿。

 勿論その隣には白天使ロリエルもいる。


 ロリエルは真っ白な正装に身を包みその空に浮かぶ大木を見上げている。

 ミカエルはルミナスを解放する。


「これより、魂納の儀をか——」


「待つっすぅぅーーー!」


「なっ!?」


「えっ!? マールちゃん!?」


「ロリエルちゃんはうちの部のエースっす! 渡すわけには行かないっすよ!」


 肩で息をしながら、儀式の場へ降り立つ天使は目も眩むような激しい光を放つ。


「その力……そう……器の力ということですね。しかし貴女の願いは叶わぬ願いです。

 世界の均衡を保つ為にこの犠牲は必要なのです。神の意志には逆らうことは出来ません。それが天使。この世界を愛して下さる神の意志には、逆らえないのですよ」


「……神様は……こんな世界、愛してくれないっす……!」



 対峙する2人、

 そこに遅れてやってきたガブリエル達が乱入した。ウリエルはマールを取り抑えようと一気に距離を詰める。

「やめるのだーっ!」


「邪魔、しないで下さいっす!」


 ドン!


「うにゃぁっ!!!!」

 ウリエルは見えない衝撃波で弾き飛ばされ、コロコロと地面に落下した。


「ウリエルっ!? な、なんて力なの」

 ラファエルは気を失ったウリエルの元へ着地して凄まじい光を放つマールを見据える。


 ガブリエルはそんなマールの前に降りたち、マールの光を中和するように一歩ずつ前に進む。


「駄目っす! 来ないで欲しいっす! ガブリンのお母さんを傷付けたくないっす!」


「マールちゃん……お願いだから落ち着いて」


「無理っす! これだけはガブリンのお母さんの言葉でも譲れないっす! 来ないでほしいっす!」


 マールは更に激しく光を放ち、大天使ガブリエルの光を打ち消した。

 ガブリエルが驚く隙もない速さでその横を通り過ぎたマールは一直線にロリエルの元へ走った。


「マールちゃん!?」


 しかしそこには大天使長ミカエルがいる。

 ミカエルはマールの前に立ちはだかり光のバリアを展開する。メタトロン程ではないが、強力な光のバリアだ。

 そんなバリアに突撃したマールだが流石にそれを打ち消すには力が足りない。


 マールの拳とバリアが激しくぶつかり合い、周囲に光の火花が散らす。

 そこにルシフェル達が到着したが眩しくてもはや何も見えない状況だ。


「ぬっ……な、何が起こっておるのだ!?」


「くっ……なんて力だ……メタトロン、皆んな、とにかく着地するぞ! このままだと吹き飛ばされてしまう!」

 ルシフェルの言葉に頷き一行は地面に降りる。


「ロリエルちゃんを返して下さいっす! うあぁぁーーーーーー!!!!」


「なりません……! ……っ!?」



 ミカエルはマールの瞳を見る。

 青い瞳の中に、赤い模様が浮かび上がる。


(それは……はっ……まさかこの子、私の力をっ!? 吸い取っている!?)


 大天使長ミカエルの瞳から神秘的な模様が消える。どうやらマールは大天使の力を器に取り込んだようだ。


「うぅっ!?」


 全てを吸われてしまう前に回避したミカエルは再びルミナスを高めていく。


 対するマールの翼は8つになりそれぞれ違う色の光を放つ。それはまるで、空にかかった虹のようだ。



(そんなっ……虹色の翼……!?)



「聖天使!?」



 バリアは砕け散りマールはそのまま神聖樹へと突撃する。ミカエルのすぐ横を通り抜け、一直線に。


 ミカエルの力の一部を取り込んだマールが神聖樹に小さな拳を打ち込む。


「マ、マールちゃんっ!? うっ……ゔあぁぁぁぁっ!」


 神聖樹の放つ光でロリエルの力が暴走を始める。神聖樹はその白天使を取り込まんと枝を伸ばした。

 その時だった、

 マールは枝より先にロリエルの元へ駆けつけ両手で小さな白き天使を跳ね飛ばしたのだ。


「きゃ!」

(マール……ちゃん……?)



「ロリエルちゃん……部長の後任、頼むっす!」



(えっ……!? あ、あ、あれ、アルビナの力が!? 消えてく!?)



「お友達になれて良かったっす! 先生やみんなとこれからも……!」



「マールちゃ……」



 2人が言い切る前に神聖樹の枝はマールの身体に絡みついた。そして取り込んでいたハニエルを吐き出し命の継承を開始する。



「ハニエルっ!?」


 ルシフェルの声にハニエルは反応するが枝に絡まれ動くことは叶わない。

 ミカエルはそんな光景を見て言った。


「始まってしまいましたね……」


 神聖樹は激しく発光する。






 ☆☆☆☆☆


 

 天の川中等女子学院、


 夏休みが終わり、2年目の2学期が始まった。


 悪魔フォルネウスは職員室を出る。廊下には黒光りタブリス、校長先生、隣のクラスで彼女でもあるサハクィエルに、そして、保健室の幼女。


 いつもの面々とすれ違いながら受け持つ教室のドアを開ける。


 キラキラトークに花を咲かせる○○エル達に席につくよう指示したフォルネウスは出席を取る。



「出席とるぞー、アラエル」

「あらら」


「アルミサエル」

「うむ」


「カマエル」

「ちぃーっす!」


「ガブリエル2世」

「はいなの〜今日もガブリなの〜」


 ガブッ!


 頭を噛まれたフォルネウスは続ける。


「ク、クロエル……」ぴゅーっ

「クロエルですが?」


「サキエル」

「ムフフ……ムフ……」

「サキエル。いつも言うが……はぁ、まあいいや」


「シャムシエル」

「はぅ〜おっ○いマッサージ〜」むにむに

「はい、次」


「ゼルエル」

「はぁ〜い」


「マトリエル」

「はいはい」カタカタ







「モコエル」

「はいですぅ〜」


「ラミエル」

「はいエル」パチクリパチクリ


「レミエル」

「はいエル」パチクリパチクリ


「ロリエル」

「あ、はい」



「はぁ、それじゃ今日の授業を始める。アルミサエル?」


 委員長アルミサエルが席を立つ。


「はい。起立! 礼っ!」






 いつもと変わらぬ日常。


 天界の大天使達も、老人達ですら、

 何事も無かったように日々を過ごしている。

 ただ一つ変わったもの。



 それは、彼女がいないということだ。




 天界の空に雲が一つ、ゆっくりと風に吹かれていく。




 ◆◆◆◆◆

 マールは自らを犠牲に、世界の均衡を守り、クラスメイトであるロリエルの日常を取り返した。

 その記憶は調整され、約束通りメタトロン達も解放された訳だ。

 しかし、これでめでたしとは言わせない!

 気付け! フォルネウス!

 心の奥底の違和感に!

 そして全てを覆すのだ!!!!

 ◆◆◆◆◆



















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