86時限目【天議会】
『皆も知っての通り、現アルビナのルミナスはもうじき尽きる』
暗闇に浮かぶ白い球体が7つ、そしてその中心に紅く光る球体も見える。
どうやら話しているのは紅い球体のようだが。
『しかし安心せよ。執行部である四大天使の報告によれば、覚醒者の確保は完了したとのことだ』
白い球体達は口々に安堵の声を漏らす。
その中の1つが言った。
『これでまた100年は安泰か』
——『そうだな、天界の未来の為に命を捧げられるのだ。白天使も本望だろう』
『おいおい、綺麗事はよしたまえよ』
————『そんなものは口実でしかないのだからな』
『魔界側としても有益な儀式だ』
『確かに、あちらはこれを飲まざるを得ないだろうしな、何故なら、魂納の儀で世界を保たねば、魔界も我等と同じ運命を辿るのだからな』
『静粛に…!』
紅い球体が声を荒げると、白い球体の声が止んだ。
『我々は神に仕えし者。神の代弁者。
我々は在らねばならぬ。その為の犠牲などいくらでも出せばよいのだ。ライナス、お前も大天使を妻に持つ身なら、よく監視しておくのだぞ? 天使、特に大天使というモノは、どうも慈悲深くて扱いに困る』
「はい……それは重々承知しております」
唯一、ヒトの形をした影が無機質な声で答える。周囲の白い球体達は、口々に言葉をもらす。
『本当に分かっているのか?』
『七大神官で実体を維持しておるのはお前だけなんだぞ? それが大天使などにうつつを抜かすとはな』
『彼奴ら天使めが叛逆しようものなら、その時はお前、自らで妻を殺すことになるぞ?』
責め立てる声は止まない。
「それも重々承知の上で、私はガブリエルを妻に迎えたのだ。実体すら維持出来ぬ老人に、とやかく言われる筋合いは無い」
言い争う声を切るように紅い球体が声を張る。
『静粛に! 神に仕えし者としてはいささか見苦しいぞ? ライナス、お前も少しはわきまえたまえ。我々がこれまでの天界を築いてきたことに変わりはないのだからな』
「失礼致しました……私は仕事がありますので、これにて」
ヒトの影が消える。
途端に白い球体達がざわつき始める。
『くそ、あの若造めが……』
『我々を何と思っとるのか……全く……』
紅く光る球体は言った。
『しかしアレはアレで実力はある。七大神官にも動ける者は必要なのだよ』
『それはそうだが。それより、人形の処分はどうするのだ?』
『あぁ、アレは見つけ次第廃棄する。大天使が見つけたとなれば簡単にこちらに差し出すとは思えんがな、人形なんぞに感情移入しおってからに』
『全く天使というモノは』
『仕方ないだろう。本来、天使はそういうモノだ。しかし我々が神と一言付け加えて話せば、抗うことも出来ぬのがまた、天使というモノだ。
所詮は皆、我々の人形だということだよ』
☆☆☆☆☆
白い部屋に沈黙が続く。
ルシフェルは心の中で思う。
(多分、この大天使達を責めても問題は解決しないだろう。真の敵は、恐らく老人達、天議会だ)
ウリエルが食器を片付けにリビングへとやってきた。考え込むルシフェルの顔をチラッと見てはサッと食器をまとめキッチンの方を向いた。
ルシフェルはそんな彼女に食事の礼をした。
「ありがとう、その、中々美味かった」
「……? そ、そうか! それは良かったのだ……!」
ウリエルはそれだけ言って少しばかり気まずそうにキッチンへと歩いていくのだった。
「ルッシー嫌われちゃったね〜」
「うるさいな、サンダルフォンは能天気過ぎるんだよ」
「考えても仕方ないからだよ。今は動ける状態じゃないし、あの大天使達には勝てない。でも思うんだ。多分四大天使は私達が思っていたほど悪い人達じゃないんだって」
「……それは確かにそうだが……」
2人が話しているのを横目にラジエルは1人神妙な表情を浮かべている。
そして何かに勘付いたように口を開く。
「来た……!」
「へ? ラジちゃんどうしたの……っ!」
サンダルフォンはとてつもなく巨大なルミナスを感じ取り辺りを見渡した。
瞬間、壁に光か扉が現れ、ゆっくりと開く。
姿を見せたのはロリエルとマールを抱いた2人の大天使、ミカエルとガブリエルだった。
ミカエルの腕に抱かれ眠る妹の姿を見たルシフェルは咄嗟に立ち上がりロリエルの名を呼ぶ。
しかし反応はない。
「……覚醒……したの……か?」
すると大天使長ミカエルは表情一つ変えずにルシフェルに言った。
「
しかし神が定めし運命を、変えることは叶いません。
ミカエルは眠るロリエルをルシフェルの腕に抱かせた。身体はちゃんと温かい。
息もしている。ルシフェルはその小さな妹の身体を優しく抱きしめた。
悔しくて涙が勝手に零れ落ちてくる。
ロリエルの白い頬にその雫が落ちるが、目は覚まさない。穏やかな表情で眠ったまま。
「……ロリエル……やっと会えたのに、ごめんな……今の僕にはどうすることも出来ないんだ」
(1週間後、その日にハニエルは死ぬ……そして……ロリエルが次は同じ目に……)
ガブリエルの抱いたマールは少し苦しそうな表情でうなされるように眠っている。そんなマールを見たラジエルが大天使ガブリエルに問う。
「その子は……マールちゃんは何故ここへ? その子は関係ないのでは?」
するとガブリエルはその赤い瞳でラジエルを見つめゆるりと話す。
「覚醒した際、近くにいたもので。それに、この子は将来の大天使候補ということでミカエルさんが直々お招きしたのです」
「大天使……候補……?」
するとマールが目を覚まし目の前で頭を抱える青髪の大天使に視線を合わせた。
「はれ……? UFOキャッチャーのお姉さん?」
「はっ、げ、元気?」
(な、何言ってるんだ私は……)
「ふふっ……元気っす……ふぇ」
マールの意識はまだはっきりはしていない様子だ。ガブリエルはそんなマールの目を手のひらで優しく閉じさせて力を込める。するとマールは再び眠りについた。
「もう少し休んでいてくださいね。それでは私はこの子を部屋に連れて行きますので、また後ほど」
大天使ガブリエルはマールを抱いてその場を後にする。
サンダルフォンは覚醒してしまった妹を抱きしめ震えるルシフェルを見ては、大天使長であるミカエルに言った。
「どうにか犠牲を出さずに済むやり方はないの? ねぇ……私達、天使なのに……人の命をこんな風に扱っていいの?」
「サンダルフォンさん? 天使は、神の手足でしかないのです」
青い瞳の中に浮かぶ綺麗な模様が揺れた。サンダルフォンは次の言葉を発することが出来なかった。
その時、
「……覚醒……してしまったようだの……うっ」
「まだ動くのには早いですよ、メタトロンさん?」
大天使メタトロンがその小さな身体を引きずるようにして姿を現した。
「寝ている訳にも……いかんだろ。喧嘩は……まだ……ゔ……」
メタトロンは言い切る前にその場で倒れてしまう。すぐにサンダルフォンが駆けつけその幼女の身体を抱き上げた。
「お姉ちゃんっ!? 大丈夫? む、無理しちゃ駄目だよ!」
「サンダルフォンか。……そんな顔をするでない。顔がビショ濡れではないか」
「だって、だって心配したんだよ? 良かった……ほんとに目が覚めて良かったよぅ……」
泣きじゃくる妹を見てやれやれと起き上がったフラフラの幼女は自分より一回り大きなサンダルフォンを優しく抱きしめては頭を撫でる。
「全く、いつまでも子供だの。それはそうと、私達を生かしてこんな場所に匿っている理由を聞いてもよいか? 大天使長、ミカエル様?」
「……構いませんが、聞いても何も変えることは出来ませんよ?」
◆◆◆◆◆
次回に続く!!!!
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