85時限目【変わらないもの】
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一面白き世界、そこは聖域と呼ばれる天界のお役所といったところである。
その聖域の一角に位置する大天使長ミカエルの自宅だが、今日はやけに騒がしい。
ひとまず、気になることはあるが、その聖域での出来事を追っていくぞ!
◆◆◆◆◆
真っ白な部屋の真っ白なテーブルの上に並ぶ料理を凄い勢いで食べる1人の大天使の姿があった。
サンダルフォンである。
「ふわぁ〜! これもとても美味しいっ! はむはむ、あっ! おいひぃ〜!」
その姿を呆然と見つめる大天使ラファエルとウリエルの2人はその勢いにドン引きしながら立ち尽くしていた。
「はむっ、はれ? 皆んなは食べないの? ……ぢゃ、私が食べちゃうよー!」ぱくり
ラジエルの皿の料理までも食べ始める始末。
「お、おい、食べていいなんて……言ってないぞ。はぁ……もういい……」
ラジエルはため息をつき色々と諦めた。
部屋の隅で1人壁にもたれるような姿の天翔ルシフェル。彼の心境は勿論複雑で、輪に入る気はなさそうである。
そんなルシフェルに金色のミニマム大天使ウリエルが声をかける。
「おい、若いの。……食事くらいとればいいのだ……意地を張ってもいいことはないのだ」
しかしルシフェルは横を向いたままピクリとも動かない。
「ルシフェルさん? お気持ちはお察し致しますが、貴方達をこうして匿って下さっている大天使長ミカエルさんのお気持ちも分かって頂きたいので御座います」
スカイブルーの髪が綺麗な大天使ラファエルは優しくルシフェルを諭す。
「……何故……僕達を審議にかけない」
「私達の役目はおよそ100年に一度訪れる世界の終わり、ラグナロクを未然に防ぐことです。
それ以外、無益なことはしたくはありません。……事が終わり次第、貴方達は解放致しますから御安心下さいませ」
「……事が終わり次第……それはつまり、ハニエルが力尽き、ロリエルがその魂納の儀にかけられたら、ということかよ! ふざけるなよ……」
「ふざけているのはお前だぞ? もし、この儀までに覚醒者が現れないなんてことになったら……この世界の均衡は崩れてしまうのだ! ……それを1人の犠牲で……その……」
睨む堕天の鋭い眼光は金色の大天使を黙らせる。小さな金色のウリエルは目を逸らし口を開く。
「仕方ないのだ……誰も……好き好んでやってないのだ……!」
ウリエルは奥のキッチンらしき部屋まで走って行ってしまった。ラファエルはその姿を見ては再びルシフェルに視線を合わせる。
「抗うことは出来ないので御座います。天議会の言葉は、それすなわち神のお告げ。……ルシフェルさん……」
「……くそ……もっと詳しく……話を聞かせてくれないか。それに……メタトロンのことが心配だ。せめて面会させてくれ」
「はぅ、ルッシー……」
サンダルフォンも流石に箸をとめ、ラファエルを見つめる。
ラファエルはやれやれと頭を抱える。
「……わかりました……しかし、彼女は翼を失っています。未だに目を覚まさないのでガブリエルさんの施した結界の中で療養中です。それでも構わないのなら……少し、ほんとに少しだけなら……」
……
一行が移動した先、
長い廊下の先にドアが。そのドアを開けるラファエル。勿論真っ白なその部屋の中央で綺麗な光の球体に包まれフワフワと宙を舞うように眠るメタトロンの姿があった。
「お、お姉ちゃんっ!」
——「いけませんっ!」
大好きな姉に飛びつこうとするサンダルフォンを制したラファエルは首をゆっくり横に振り妹大天使の口を指で閉じさせる。
「騒がないで? この結界はかなり繊細な力で出来ておりますので……」
とても穏やかな表情で眠るメタトロンを見たルシフェルは小さく呟く。
「……彼女は……メタトロンは……」
「命に別状はありません。しかし翼を失ったことで少しばかり後遺症は残るかも知れませんね。」
「そうか、ありがとう。無事が確認出来ただけで少しは安心したよ。僕達を生かしてくれたこと、それには感謝する。しかし、僕は最後まで諦めることは出来ない。それでもいいか?」
ルシフェルは大天使ラファエルの水色の瞳を真っ直ぐに見つめた。
「……はい、それで構いません。もし貴方が動いたら、私達が全力でそれを食い止めますから」
「わかった。ラファエルさん、食事、いただけますか?」
「はい、すぐにお持ちしますね?」
メタトロンの無事は確認された。
一行が部屋に戻るとそこには金色のウリエルがいた。ウリエルは、はっ! と少し驚いた表情でこちらを見てはすぐにその場から去ってしまった。
真っ白なテーブルの上、そのルシフェルの席には出来立ての料理が並んでいた。
ウリエルが用意したのだろうか。
「……ウリエルさんは相変わらずだな」
ラジエルが言った。
「優しい子ですからね」
ルシフェルは頭をかきながら困った表情で言った。
「これはまいったな……」
「食べてあげればいいんだよ、ルッシー。それが一番喜んでくれるんじゃないかな? 私はね、本当の悪い人達は他にいるって、そう思うんだ、だから」
「……そうだな。サンダルフォン、ありがとな」
「ふぇ?」
「お前が辛いのに明るくしていたおかげで、場の空気が和んだ。一番辛い筈のお前なのに」
「そ、そんなことないよ……お姉ちゃんのことは残念だったよ、でもでも、これでお姉ちゃんは解放されたんだって思うと、不謹慎だけれど、少し嬉しく思っちゃった。
これから、ルッシーの妹さんが儀式にかけられてしまうって時に……」
「お前ってさ、昔から変わらないな。メタトロンもそうだが、双子揃って優し過ぎるんだよ」
ルシフェルはへこむサンダルフォンの頭をポンと叩き笑顔を作る。サンダルフォンはそんな彼を見上げ頬を赤らめる。
「その、頭ポンってするくせ、だ、誰にでもするものじゃないんだからね?」
「ん?」
「だ、だから、お、おお、女の子はその、女の子を勘違いさせちゃうと面倒だってこと! ルッシーだって、昔からちっとも変わんないよ」
「お、おう、そうか、なんかすまん」
◆◆◆◆◆
メタトロンの無事は確認された。しかし、その背中の翼は失われてしまった。
ミカエルの慈悲により、天議会から匿われる形となったルシフェル達に現状突破の糸口はあるのか!?
ロリエルはこのまま、魂納の儀にかけられてしまうのか!? そして、器の少女マールは!?
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