84時限目【覚醒】

 

 ◆◆◆◆◆

 暗くなりはじめた天界の空には今日も雲一つない。天使部の5人は川辺の花火がよく見える場所で空を見上げていた!

 今回も祭の様子を神視点で追っていくぞ!

 ◆◆◆◆◆




 大きな太鼓の音がする。

 音は広い公園に響き渡り、人々にメインイベントの開始を伝える。徐々に人が増えてくる。

 天使も天翔も、そして悪魔も皆んなが空を見上げたその時、一発の打ち上げ花火が上がった。


 花火は見事に弾け空で綺麗に咲いた。

 おお! と皆が思った瞬間、一気に数発の花火が上がり空を彩る。花火は次々と上がり光のイルミネーションが天使達を照らした。


 サハクィエルもうっとりしながら空を見上げている。悪魔フォルネウスもそんな正天使の横顔をチラチラと見ながら空のイルミネーションを堪能している。フォルネウスはふと思う。


(綺麗なものを見て、こんなにいい気分になれるなんて1年前には考えもしなかったな)


 勿論、魔界にも綺麗な場所やこのようなイルミネーションもある。しかしフォルネウスはそんな楽しみを全て捨てて父ラウルの期待に応えようとしていたのだ。


 一方天使部の5人も空を見上げてはその濁りのない澄んだ瞳をキラキラと輝かせている。

 ロリエルは空のイルミネーションを瞳に映しながら思う。


(お兄ちゃんとこの花火を見たのはいつだっけな……もういなくなって2年も経とうとしてるのに……何処行っちゃったんだろ)


 そんな思考を巡らせながらふと隣で空を見上げるマールを見たロリエルだったが、その表情がとても哀しげに見える。

 ロリエルは思わず声を漏らす。


「……マール……ちゃん?」


 ロリエルの声を聞いたマールはふと我に返ったように白き天使を見つめる。そしてすぐにいつもの目が眩むほどの眩しい笑顔を見せる。


「どうしたっすか? ロリエルちゃん!」


「あ、いえ……何でもないよ? 花火、綺麗だね」


「綺麗っすね。ずっと、ずっとこのままこうして空を見上げてたいっす。なんて思ったりして!」ぴょこん!


「いつまでも……また来年も来ようね。皆んなでまた花火を見て、いっぱい遊んで、卒業してもずっと……大人になっても……こうして皆んなで笑えたらいいね」


 ロリエルは空のイルミネーションを見つめながら言った。


「勿論っすよ!」


 ……






 楽しい時間は終わる。

 祭りも終わり、皆帰路についていく。


 あんなに活気に溢れていた公園も一気に静まり返る。祭りのあとはどこか寂しい。


 ガブリエル2世はお迎えの執事に連れられ帰って行く。モコエル、クロエルにも親御さんの迎えが来たようで、またねと手を振り帰って行く。


 残された2人。

 やはり何処か哀しげなマールが気になったロリエルは彼女に手を差し伸べた。


「ねぇマールちゃん? 途中まで一緒に帰ろ?」


「そ、そうっすね!」


 ロリエルはこの笑顔の眩しい天使が帰った先に、誰もいないことを知っている。帰るとマールは1人になることを知っている。


 2人は街灯に照らされながらテクテクと歩く。

 その間、マールはとても楽しそうに色んなことを話してくれる。

 暫くそうして歩いていると商店街が見えてきた。


 ロリエルの家はすぐそこだ。

 しかしマールは更に学校を越えたその先に住んでいる。ここでお別れである。


 マールは輝く笑顔で言った。


「楽しかったっすねロリエルちゃん! また、絶対に行くっすよ! 約束っす!」


「うんっ! 約束!」

(マールちゃんは強いね……私だったら寂しくて泣いちゃうよ。それなのに何故そんな笑顔で)



 ————————————

 

 ……笑顔……で……


 ……え……が……



 ……………あれ……………



 時計の音……


 ……頭が痛……ぃ……




 ……マールちゃん? 何を言ってるの?


 ……そんな慌てて……どう……したの……


 ————————————


 ——



「ロリエルちゃんっ!? うわわっ……す、凄いルミナスっす……うぅっ……違う、これは!?」

(拙者も知ってるこの感覚は……)


 マールは力の限り叫んだ。


「駄目っすロリエルちゃん! その力はっ!」


 マールの目の前に佇む白き天使。


 ソレはとてつもない天使力ルミナスを解き放ちマールの小さな身体を弾き飛ばした。




 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 事件発生 事件発生 事件発生

 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎



 


「ロ、ロリエルちゃんっ!? きゃっ!」


 激しく尻もちをついたマールは辺りを見回した。

 確かに商店街の入り口付近にいた。しかし、


「……こ、ここは……?」


 目の前の白き天使は頭を抱え呻き声を上げている。そして見る見るうちに風景は変わり、真っ白な光の世界となる。


 地面に膝をついて四つん這いの状態でマールを睨むロリエル。その瞳は、


「白い……瞳……?」


 ロリエルの息は荒く目は見開きその紫の瞳は白く変色する。


「はうぁっ……ぅ……っゔぁぁぁあぁぁっ」


「うぅっ!!」

 激しい力でマールの細く小さな身体は宙に浮き再び吹き飛ばされそうになった。そんなマールの身体を後ろから受け止めた何者かは耳元で静かに囁いた。それはよく知っている声だった。


「マールちゃん、大丈夫ですか?」


 飛ばされそうになったマールを受け止めたのは大天使ガブリエルだ。彼女は6つの大きな翼を広げマールを衝撃から守るように包み込んだ。


「ミカエルさん、お願いします……!」


 マールは必死に衝撃を受け止めるガブリエルに言った。


「ガブリンのお母さん……」


「大丈夫よ。私が守りますから、安心して下さい」


「安心してって……ロリエルちゃんは、ど、どうしちゃったんっす、……です?」


 マールの質問に答える前に事は起きる。

 叫びながらルミナスを暴走させるロリエル、その上空から素早く懐に入り光り輝く翼を広げた大天使長ミカエル。彼女は左手を伸ばしロリエルに触れようとした。


 しかしロリエルの周囲に展開されたバリアがそれを拒否した。


「……これは中々……ですね!」


 大天使長ミカエルは天使力ルミナスを更に高め自らの身体を光で包み込む。そして次は両手を伸ばしロリエルの周囲に張られた結界を掻き分けるように中和していく。


 ミカエルの指が徐々に結界の中へと入っていく。


「ロリエルちゃん!」


 マールが飛び出そうとするのを引き止めながら衝撃に耐える大天使ガブリエル。

 彼女は防御しながら更に治癒の力を行使している。マールの擦りむいた手のひらの傷は瞬く間に消えていく。


「ゔぁぁぁあぁぁっぁぁっ!!!!」


「……くっ! もう少し……!」


 ミカエルの手がロリエルの身体に届いた。

 ミカエルはそのまま白き天使の小さな身体を自分の方へ抱き寄せた。

 強く抱きしめるとロリエルの身体から発していた強烈な力の渦は消え去る。


「はぁ……はぁ……マナの言っていたことは正しかったようですね。今は眠りなさい。貴女はその力で、——世界を救うのですよ」


 ミカエルは地面に膝をついた。


「ミカエルさんっ!」


「大丈夫ですよ……ガブリエルさん。それよりも一度聖域へ帰還しましょう。そうですね、もしものことがあります。……器の少女も共に」


「こ、この子も……?」


「……っ……予備は、必要でしょう? 前回のようなことがあっては困りますからね」


 ミカエルは青く澄んだ瞳で大天使ガブリエルを見据える。その瞳には綺麗なピンク色の模様が浮かび、とても神秘的な訳で。


 マールはそんな大天使長に言った。


「大天使長……ミカエル様? ……こ、これは……いったいどういうことなん……す……ですかっ?」


 するとロリエルを抱き上げゆっくりと立ち上がったミカエルが同じく青く澄んだ瞳の少女、マールに優しく言った。


「この少女の覚醒した力、それは白天使、アルビナの覚醒と言われております。その力は神から授かりし力で、世界を救う力なのです。

 この世界にはこの力が必要なのです。貴女にも素質はありましたけども、今回はこの子が無事に覚醒することとなりました」


「……アルビナ……世界、救う……素質……い、意味が……」

 頭を抱えるマール。


「貴女もとても綺麗なルミナスをしていますね。感じますよ、貴女の力……さ、私達と共に、聖域へいらして下さい。詳しいお話はそれから。……まずはこの子を、休ませてあげないと」


 気を失うロリエルの顔を見つめ、小さく微笑む大天使長ミカエル。


「ロリエルちゃ……ん……を……か、え……」


 マールは眠るように気を失う。

 そんな彼女を丁寧に優しく抱き上げたガブリエルはミカエルを見て頷いた。


 ミカエルは目の前の空間に光の扉を召喚する。

 2人の大天使はその扉を潜り姿を消した。



 今日も天界の夜は雲一つない満点の星空。



 いつしか商店街を包み込んでいた白天使の領域は消え、そして何事もなかったかのように祭り帰りの天使達が通り過ぎて行くのであった。


 ◆◆◆◆◆

 次回! 最終章突入!

 物語も終盤、遂にアルビナ覚醒したロリエルを回収した大天使長ミカエル。共にいたマールまでもが聖域へ連れて行かれてしまった。

 聖域で語られることとは?

 行方不明の元天使部は?

 そして、ロリエルの運命は?

 ◆◆◆◆◆



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