83時限目【今年も皆んなでお祭り】

 ◆◆◆◆◆

 あれから2日、マールをはじめとする天使部のメンバーも、顧問のフォルネウスですらも、あの夜のことを憶えてはいない。

 ましてや、保健室の幼女のことも、誰も気付かない始末だ。彼らから、白天使アルビナに対する全ての記憶が抹消され、都合の良い記憶に塗り替えられてしまった訳だ。

 それも知らず、お気楽にお祭りに来た一行のことを神の視点で追っていくぞ!

 ◆◆◆◆◆



 本日も天界は雲1つない晴天である。


 夏休みも終わりに近づいた今日は去年も開かれていた天の川の一大イベント。天の川で一番広い公園には朝から屋台が並び既に活気に満ち溢れている。


 浴衣姿の○○エル達も続々と押し寄せてくる。そんな中に彼女達も勿論いる。


 天使部の仲良し5人組、

 マール、ガブリエル2世、クロエル、モコエル、そしてロリエルの5人はそれぞれお気に入りの浴衣で屋台を物色していた。


 顧問はというと、

 言うまでもなくサハクィエルと一緒である。

 付き合い始めて1年も経つというのにいつまでもアツアツの悪魔天使カップルは白昼堂々と手なんか繋いで歩く始末だ。


 勿論、生徒達はそんな2人を見てはキャッキャと騒ぐが邪魔はしない。校長をはじめ、生徒達も公認のおしどりカップルなのだ。



「ガブリン、残念だったっすね! ドンマイっす!」


「むきぃ〜っなの〜! ……あの親父〜!」


 どうやらまたズルがバレたようでご立腹のガブリエル嬢はクロエルが買って来てくれたタコ焼きを小さな口に放り込む。


「あっ……ガブリエルちゃん!? そ、そそ、それ出来立て、ですがっ!?」プルプル!


「うわちぃ〜っなの〜っ!」ジタバタ!


「ふふっ、ガブリエルちゃん一口は無謀だよ〜?」


 モコエルはもがくガブリエル2世を見てニコニコしている。

 ロリエルはやれやれと近くで水を買ってきては封を開けガブリエル2世に手渡した。ガブリエルはそれを急いで飲んで口の中を鎮火し何とか落ち着くのであった。


「口の中がヒリヒリするの〜」


「自業自得ね。それなら口直しにカキ氷でも買いに行こうよ?」


 ロリエルの提案に皆は快諾し仲良くカキ氷の屋台を探すのだった。


 あの夜から2日。

 ○○エル達とフォルネウスのマナエルに対する記憶はやはり消えている。何事もなかったかのように、日常が流れていく。



 ☆☆☆☆☆


「はい、あーんしてぇ?」


「えっ、恥ずかしいですって…。あ、あーん……」


 ズポッ!


 恥ずかしながらも口を開けた悪魔の口にイカがぶち込まれた。


「わぁ、凄いですね! フォルネウス先生の口は何でも入っちゃいます!」


「むぐむぐ……」ごっくん


 イカを丸呑みにしたフォルネウスは言った。


「サハクィエル先生……丸ごと突っ込むの最近流行ってますよね。まぁ美味いからいいんだけど」


「あっ、ごめんなさいっ! ついつい面白くなっちゃいまして」


 サハクィエルは綺麗な翠と蒼の浴衣姿で勿論首元には瞳の色と同じ琥珀色のパワーストーンをあしらったネックレス。

 今年も髪を後ろで結っていて綺麗なうなじが見え隠れしている。豊満な胸も健在で、密着する度に悪魔を駄目にしていく。


「あ、そうだ! アレも食べましょう! イカ焼き!」


 フォルネウスは思い付いたように手を叩く。


「ふふっ、今イカを丸呑みにしたところなのにまたイカですかぁ? フォルネウス先生ったら、本当に良く食べますね! ふふっ」


 どうやらツボに入ったらしく中々笑いが止まらないサハクィエル。フォルネウスは頭をかきながらつられて笑うのであった。


 もう結婚してしまえ。そんな二人である。



 ☆☆☆☆☆


「んーっ冷たくて美味しいっ!」


 カキ氷を一口食べたロリエルは幸せそうに笑う。


「やっぱり夏はカキ氷っすね!」


「美味しいの〜! 口の中もヒリヒリしないの〜!」


 公園のベンチに座ってカキ氷を堪能する天使部の5人。どうやら次は何処を回るか話し合っているようだ。時刻は午後2時。


 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 事件発生まで、あと、7時間

 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎


「ゔぅっ!」


「ど、どうしたんすか!? クロエちゃん?」


「頭が……」キーン……プルプル


 そんなクロエルを笑いながら一行はクジ引きの屋台に目をつける。マールの提案で皆でクジを引くことに。天使達は屋台の親父に5人分の金額を渡す。


 クジは各自1回ずつ引くことになる。

 一番手は、ガブリエル2世だ。


「一発で特賞を当てるの〜! 当たらなかったら親父に噛み付くの〜!」

 銀髪ちびっ子天使はやる気満々だ。


「お嬢ちゃん、噛み付くのは御免だぜ? さ、引いてみな!」


 ガサゴソ

「なのっ!? これなの〜!」


 ガブリエル2世は箱から取り出したクジを開く。


 残念賞。


「なのっ!?」


「はい、お嬢ちゃん。この中から好きなお菓子を選んでくれよ? 1つだけだぞ?」


 親父はドヤ顔でガブリエル2世の頭をポンと叩く。


 お次はプルプル天使クロエルの番だ。


「そ、それじゃぁ、う〜ん……これにするんですがっ!」プルプル!


 同じく取り出されたクジを開く!


 残念賞。


「ま、まぁお菓子を買ったと思えば……」プルプル


 高いお菓子を買ったものだ。


 続いては、ニコニコふんわり天使、モコエル。


「それじゃ〜私は〜これ〜! ふふっ、開くよ〜?」


 B賞。


「おじさん〜? B賞なんですけど〜?」


 モコエルのクジを確認した親父は後ろから小箱を取り出しモコエルに見せる。


「よっお嬢ちゃん! この中のおもちゃから好きなの選びな?」


「は、はぁ〜」

(ど、どぉしよう。どれもいらない……残念賞のお菓子の方がいくらかマシだよ〜)


 モコエルは渋々プラスチック製のマイクを手に入れた。

(これ、何に使うんだろ……)


「おっ、モコちゃんはマイクっすね! イカしてるっす!」ぴょこん


「それじゃ次は私が引くね?」

 ロリエルはクジの入った箱の前に立ち大きく深呼吸する。ガチである。


 狙いは特賞!

 そう、特賞の商品は、


 デビレンデラックスフィギュアセットなのだ!


 お店で買おうとしたらかなりお高い商品である。


 ロリエルの小さな手が箱の中に。


(これは……違う……)ガサゴソ……


 ガサゴソ……(……これも……)


(……! ……き、きっとこれだ!)



 ロリエルは勢いよくクジを取り出した。



 結果、



「……このマイク、何に使うの」


 プラスチック製のマイクをゲット。


 そして最後は部長マールである。


「皆んなの仇は拙者が! クジ引きは悩まず一気に引くっすよ! とうっ!」


 マールは言葉通り一瞬でクジを引いた。


 そして皆の前でそれを開いたのだが、



 特賞!



「やったっすー! 特賞っす!」ぴょこんぴょこん!


 親父もビックリの一発特賞。


「お、お嬢ちゃんやるねー! こ、これが特賞の商品だ!」

(おかしーな、特賞入ってたっけ。ま、しゃーねぇか……)


 マールはデビレンデラックスフィギュアセットを手に入れた!


「今日はツイてるっすね! どうせだからこれ、皆んなで一体ずつ選ぶのはどうっすか?」ぴょこ


「えっ!? い、い、いいのマールちゃん!」


 目を輝かせるロリエル。


「勿論っす! ロリエルちゃんはパープル一択っすね!」


「うん! 正直パープル以外はどーでもいいよ!」


 こうしてそれぞれがフィギュアを選んだ。


 マールはデビワインレッド、


 ガブリエル2世は虹色タイツ仮面、


「何なのコイツ〜?」


 クロエルはデビベージュ、


 モコエルはデビシクラメンピンク、


 そしてロリエルは、勿論デビパープルを選んだのだった。しかし、箱の中にはもう一体フィギュアが残っているようだ。

 デビモスグリーン。


「一体、残ってるっすね。」


「……モスグリーン……だね」


 ○○エル達は顔を見合わせて瞳をパチクリ。

 マール、ガブリエル、クロエル、モコエルの4人が一斉にロリエルを見る。そして頷き、残ったモスグリーンはガチファンであるロリエルに託すことに。


「あ、ありがとうマールちゃん! これ、大事にするよ」


 ロリエルは屈託のない笑顔を見せる。

 出会った頃に比べるとだいぶ自然に笑えるようになったロリエルに天使部の皆んなも眩しい笑顔で応えるのだった。


 辺りが薄暗くなり始める。

 そろそろ花火の時間だろうか。○○エル達は急いで打ち上げ花火の良く見える場所に移動を開始するのであった。


 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

 事件発生まで、あと、4時間

 ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎


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